総論
少額訴訟とは、金銭の支払の要求を目的とする訴額60万円以下の訴えのうち、少額訴訟による審理及び裁判をするのが相当であり、公示送達以外の方法で口頭弁論期日の呼出しをすることができる訴えについて、1年に10回以下に限って、訴えの提起の際に少額訴訟による審理及び裁判を求める旨とその年における回数の申述があれば、特別の事情がある場合を除いて最初の口頭弁論期日で審理が完了する少額訴訟による審理及び裁判を行う制度です。
1期日審理原則があるため、当事者は期日までにすべての攻撃又は防御の方法を提出しなければならず、証拠も即時に取り調べることができる証拠に限られています。被告は少額訴訟では反訴ができないものの、口頭弁論期日で弁論するまでは通常訴訟に移行させる旨の申述をして通常訴訟に移行させることができます。
少額訴訟では相当でないと認める場合を除いて、口頭弁論終結後、判決書の原本に基づかず直ちに判決の言渡しがされ、裁判所書記官による判決書に代わる調書が送達されます。被告の資力等の事情を考慮して特に必要があると認めるときは、判決言渡し日から3年以内で支払時期を定めたり、分割払を定めたり、その定めを守ったときは訴え提起後の遅延損害金を免除する旨の定めもすることができます。支払猶予については不服申立てができません。また、仮執行の宣言が付されます。
少額訴訟の終局判決には控訴をすることができませんが、送達を受けた日から2週間以内に判決裁判所に異議を申し立てることができます。適法な異議があったときは、訴訟は口頭弁論の終結前の程度に復し、通常の手続により審理及び裁判をします。
通常訴訟移行後も反訴は禁止され、支払猶予の定めをすることが可能です。通常訴訟の終局判決に対しては控訴をすることができません。
原告としては、訴額60万円以下の金銭債権で即日判決であって、先制攻撃を強固にすることで有利な判決を得られやすいことがメリットである一方、通常訴訟に移行されようがされまいが、支払猶予や遅延損害金の免除がされる可能性があることに注意が必要。
反訴を封じることはできるが、結局のところ被告は別訴をすることができるので考慮しなくてもよいと考えています。
ただし、相手が移行の申述をする前に、弁論をしてしまうことを期待できるかもしれません。
口頭弁論期日の時期は、通常訴訟と同様に申立てから1か月程度に指定される(東京簡易裁判所)ことから、2週間である支払督促のほうが便利といえるのではないかと考えますが、十分な反論ができるかどうかという点では少額訴訟のほうがよさそうです。
少額訴訟の要件
少額訴訟の要件は、公示送達以外の方法で口頭弁論期日の呼出しをすることができる場合において、金銭の支払の請求を目的とする訴額60万円以下の訴え(民事訴訟法第368条第1項本文)であり、かつ、少額訴訟による審理及び裁判をするのが相当(おおむね1期日で審理が可能であって被告による反訴の可能性がないものだと思われる)であり、かつ、同一年における同一簡易裁判所において10回(民事訴訟規則第223条)以下(民事訴訟法第368条第1項但書)であることです。(民事訴訟法第373条第3項)
- 公示送達以外の方法で口頭弁論期日の呼出しをすることができる
- 金銭の支払の請求を目的とすること
- 訴訟の目的の価額が60万円以下であること
- 少額訴訟による審理及び裁判をするのが相当であること
- 同一簡易裁判所において年10回以下であること
少額訴訟の申立て方法
訴えの提起の際に、少額訴訟による審理及び裁判を求める旨(民事訴訟法第368条第2項)、その年における回数の申述(民事訴訟法第368条第3項)をして少額訴訟の申立てをします。
申立ての方法や書式については、最高裁判所、東京簡易裁判所、名古屋簡易裁判所などを確認しましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
管轄裁判所 | 簡易裁判所が専属管轄裁判所となる。 ※土地管轄は被告の住所地、義務履行地、事務所又は営業所の所在地、不法行為地、合意管轄、応訴管轄など通常訴訟と同じ(参考記事) |
申立て手数料 | 通常(別表第1、早見表、参考記事) ※申立書に貼り付ける |
その他の費用 | 名古屋簡易裁判所は6,710円分(500円10枚、100円5枚、84円10枚、20円10枚、5円10枚、2円10枚) ※名古屋地方裁判所は、通常訴訟について7,720円分としているので、少しだけ安い。 ・支払督促正本送達費用 東京簡易裁判所は5,200円分(500円5枚、100円10枚、84円10枚、50円10枚、20円10枚、10円10枚、5円10枚、2円5枚) |
書類 | (訴状、郵便切手) ・当事者が法人の場合は商業登記の登記事項証明書(履歴事項全部証明書) ※登記・供託オンライン申請システム(かんたん証明書請求)を利用したオンライン交付請求が可能。手数料(500円程度)の納付方法はインターネットバンキング可(オンライン交付請求) ・不動産に関する訴訟の場合は不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書 ※(被告の数+1)通の提出が必要 |
訴訟(少額訴訟)の申立てについて(名古屋簡易裁判所)
少額訴訟の申立ての効果
手続の教示
裁判所書記官は、口頭弁論期日呼出しの際、当事者に対して少額訴訟の手続の内容を説明した書面を交付しなければなりません。
裁判官は、期日の冒頭において、次の事項を説明しなければなりません。
- 証拠調べは即時に取り調べることができる証拠に限りすることができること
- 被告は訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができるが、最初にすべき口頭弁論期日で弁論をするか、弁論をしなくてもその期日が終了した後にはできないこと
- 少額訴訟の終局判決に対しては、判決書又は判決書に代わる調書の送達を受けた日から2週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に異議を申し立てることができること
当事者本人の出頭命令
裁判所は、訴訟代理人が選任されている場合でも、当事者本人又はその法定代理人の出頭を命ずることができます。(民事訴訟規則224条)
1期日審理原則
少額訴訟では、1期日審理原則の下、当事者は、期日を含む期日までにすべての攻撃又は防御の方法を提出しなければならず(民事訴訟法第370条第2項)、証拠も即時に取り調べることができる証拠に限られています。(民事訴訟法第371条)
尋問
少額訴訟では証人尋問の宣誓を省略することができ、尋問の順序は裁判官が相当と認める順序でします。(民事訴訟法第372条)
証人尋問について、尋問事項書の提出は要しません。(民事訴訟規則225条)
裁判所が相当と認めるときは、裁判所、当事者双方が音声通話する方法によって証人を尋問することができます。(民事訴訟法第372条)
同時音声通話の方法による証人尋問は、電話番号と通話場所を明らかにした当事者の申出があるときにすることができます。(民事訴訟規則226条)
反訴の禁止
少額訴訟では、被告により反訴を提起することはできません(民事訴訟法第369条)。
通常訴訟移行(通常の手続に移行させる旨の申述)
被告は、被告が最初にすべき口頭弁論期日において弁論をし、又はその期日が終了するまで、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をして通常訴訟に移行させることができます。(民事訴訟法第373条)
期日においてする場合を除き、書面でしなければなりません。(民事訴訟規則第228条)
また、裁判所は少額訴訟の要件を満たしていないときは、通常訴訟に移行する決定をしなければなりません。この決定に対して不服申立ては認められていません。(民事訴訟法第373条)
判決の言渡し
少額訴訟では、相当でないと認める場合を除き、口頭弁論終結後、判決書の原本に基づかず、直ちに判決の言渡しがされます。判決書の作成に代えて裁判所書記官が当事者及び法定代理人、主文、請求並びに理由の要旨を、判決言渡し日の調書(判決書に代わる調書)に記載されます(民事訴訟法第374条第2項により民事訴訟法第254条第2項を準用)。判決書に代わる調書は、その謄本によって当事者に送達されなければなりません。(民事訴訟法第374条第2項により民事訴訟法第255条を準用)
支払猶予
少額訴訟では、裁判所が請求認容判決をするとき、被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があると認めるときは、判決の言渡し日から3年を超えない範囲内において、時期を定めたり、分割払を定めたり、これらの定めを守り支払をしたときは、訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをすることができます。
この支払猶予について、不服申立ては認められていません。
仮執行宣言及び担保
請求認容判決の場合、裁判所は、職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言しなければなりません。(民事訴訟法第376条第1項)
担保を立てるには、担保命令の裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に、金銭等を供託する方法等によらなければなりません。(民事訴訟法第376条第2項により、76条を準用)
被告は訴訟費用に関して供託金銭等について他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有します。(民事訴訟法第376条第2項により、77条を準用)
担保を立てた者が担保の事由が消滅したこと、担保権利者の同意を得た(訴訟の完結後、裁判所が担保を立てた者の申立てにより担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し担保権利者がその行使をしないときは担保の取消しについて同意があったとみなす)ことを証明したときは、裁判所は、申立てにより担保の取消しの決定をしなければなりません。(民事訴訟法第376条第2項により、79条を準用)
裁判所は、担保を立てた者の申立てにより、決定で、その担保の変換を命ずることができます。(民事訴訟法第376条第2項により、80条を準用)
控訴の禁止
少額訴訟の終局判決に対しては、控訴をすることができません。(民事訴訟法第377条)
少額訴訟に関する不服申立て
支払猶予
支払猶予について、不服申立ては認められていません。(民事訴訟法第375条)
終局判決
少額訴訟の終局判決に対しては、判決書又は判決に代わる調書の送達を受けた日から2週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に異議を申立てることができます。
異議を申立てる権利は、申立て前に放棄することができます。(民事訴訟法第358条)
終局判決に対する異議は、通常の手続による第一審の終局判決があるまで、相手方の同意を得て、口頭弁論・弁論準備手続・和解期日では口頭でもよいですが、それ以外は書面で(民事訴訟法第261条3項が準用)取り下げることができます(民事訴訟法第360条)。取下げ書面は送達しなければならず(民事訴訟法第261条4項が準用)、送達日(相手方が出頭している期日等で口頭でされたときはその日)から2週間以内に相手方が異議を述べないときは、終局判決に対する異議の取下げに同意したものとみなされます。(民事訴訟法第261条5項が準用)
終局判決に対する異議の取下げがあると、初めから係属していなかったものとみなします。(民事訴訟法第262条1項を準用)
双方が口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、1月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴え(終局判決に対する異議)の取下げがあったものとみなされます。連続2回あった場合は、期日指定の申立てにかかわらず同様の取扱いがされます。(民事訴訟法第263条を準用)
異議後の審理及び裁判
適法な異議があったときは、訴訟は、口頭弁論の終結前の程度に復し、通常の手続によりその審理及び裁判をします。(民事訴訟法第379条第1項)
異議後の通常の手続による審理及び審判には、第362条、第363条、第369条、第372条第2項、第375条の規定が準用されるため、次のとおりです。
裁判所は、異議後の通常の手続による判決が少額訴訟と符号するときは、法律に違反しない限り少額訴訟の判決を認可し、符号せず認可しない場合は少額訴訟の判決を取消さなければなりません。(民事訴訟法第362条)
少額訴訟においてした訴訟費用の負担の裁判を認可する場合には、裁判所は、異議の申立てがあった後の訴訟費用の負担について裁判をしなければなりません。訴訟費用の負担の裁判は、本案判決に対し適法な控訴があったときは失効し、控訴裁判所が訴訟の総費用についてその負担の裁判をします。(民事訴訟法第258条4項の規定が準用される)(民事訴訟法第363条)
異議後の通常の手続による審理及び裁判でも、反訴は禁止され(民事訴訟法第369条)、尋問は裁判所が相当と認める順序(民事訴訟法第372条第2項)でし、支払猶予の定め(民事訴訟法第375条)もすることができます。
異議後の判決
異議後の通常の手続による終局判決に対しては、控訴をすることができず、判決に違法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに限り、最高裁判所に更に上告をすることができます。(民事訴訟法第380条)
担保の取消しの決定
担保の取消しの決定については、担保権利者に対して裁判所が催告をしてもその行使をしないときを除いて即時抗告をすることができます(民事訴訟法第376条第2項により、79条を準用)
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