公証制度とは?

公証制度とは 債権保全・債権回収
公証制度とは

メモ:債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている金銭債権等の公正証書は強制執行認諾条項付公正証書であり、民事執行法では執行証書として執行力を有する。執行文付与申立書と強制執行認諾条項付公正証書正本、本人確認資料、返信用レターパックプラスを準備して執行文付与の申立てをすると、公証人が執行文を付与し、強制執行が可能となる。証書作成の基本手数料は100万円以下なら5,000円、執行文付与の手数料は1,700円、正本・謄本の交付は250円、正本・謄本の送達は1,400円、送達証明は250円となる。

公正証書の作成の嘱託申請は、インターネットを利用して電子署名を付して行うことが可能となる予定です。また、公正証書の原本は原則として電子データで作成・保存するようになります。「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)」(法務省民事局)

公証制度とは?

公証制度とは、国民の私的な法律紛争を未然に防ぐために、証書の作成などによって一定の事項を公証人に証明させる制度のことです。

裁判所は事後救済ですが、公証制度は予防司法の役割を担います。

公証人

公証人とは、判事や検事、法務事務官などを長く務めた法律実務家のうち法務大臣から任命された公務をつかさどる人です。公証人は全国に約500名います。

公証役場

公証人は(地方)法務局に所属し(公証人法第10条第1項)、法務局の管轄区域内にある公証役場で事務を行っています。つまり公証役場とは、公証人の事務所です。公証役場は全国に約300箇所あります。

公正証書を作成したい場合などは、地方法務局の管轄区域内にある公証役場で手続きをしましょう。

名古屋駅前公証役場

公証事務とは?

公証事務とは、公証人が提供する法律サービスです。公正証書の作成のほか、認証の付与と確定日付の付与が主な事務となっています。(公証人法第1条

  • 私権に関する事実について公正証書を作成すること(第1号)
  • 私署証書に認証を与えること(第2号)
  • 定款に認証を与えること(第3号)
  • 電磁的記録に認証を与えること(第4号)

電磁的記録に関する事務は、指定公証人が取扱います。(公証人法第7条の2

公正証書の作成

個人や法人からの嘱託によって、公務員である公証人は、その権限に基づいて公文書たる公正証書を作成します。

違法・無効・制限行為について

公証人は、違法事項、無効の法律行為、行為能力の制限によって取り消すことができる法律行為については、証書を作成することができません。(公証人法第26条

本人確認について

公証人が証書を作成するには、原則として、嘱託人の氏名を知り、かつ、嘱託人と面識のあることが必要です(公証人法第28条第1項)。通常は、印鑑証明書その他これに準ずる確実な方法によって本人確認をしなければなりません公証人法第28条第1項)。

公正証書の必要的記載事項

公証人が証書を作成するには、その聴取した陳述、その目撃した状況その他自ら実験した事実を録取し、かつ、その実験の方法を記載して証書を作成しなければなりません。(公証人法第35条

  • 証書の番号
  • 嘱託人の住所、職業、氏名、年齢
  • (代理人によって嘱託したときは)代理の旨、代理人の住所、職業、氏名、年齢
  • 嘱託人又はその代理人の氏名を知り、かつ、これらと面識あるときはその旨
    ※本人確認のことだと思われる
  • 本人確認をした旨
  • 作成年月日、作成場所
  • 一部省略

公証人法第36条

公正証書の書き方

公証人が証書を作成するには、普通平易の語を用い、字画を明瞭にしなければなりません。数量、年月日、番号を記載するには、壱弐参拾の字を用います。(公証人法第37条

壱、弐、参、肆、伍、陸、漆(質)、捌、玖、拾、佰、阡(参考

縦書きの場合、「一」に縦棒を加えただけで「十」になってしまうなど改ざんのおそれがあるため、このような大字を使うこととされています。

証書の文字は改ざんすることができませんが、文字を挿入するとき、削除するときの訂正は、それぞれ次のとおりにしなければ無効となります。(公証人法第38条

区分方法
挿入挿入する字数と挿入箇所を欄外又は末尾の余白に記載し、公証人及び嘱託人又はその代理人がこれに捺印する
※通常は、吹き出しなどで挿入箇所を示して文言を書き入れ、その近くに訂正印を押します。末尾に、「◯行目に「◯◯」の2文字を挿入した」と書き入れて署名捺印をします。
削除削除する文字を読めるように字体を残し、削除した字数及び削除箇所を欄外又は末尾の余白に記載し公証人及び嘱託人又はその代理人がこれに捺印する
※通常は、削除箇所に二重線を引き、その上部に正しい文言を書き入れ、二重線の近くに訂正印を押します。末尾に、「◯行目の「◯◯」の2文字を削除した。」「◯行目の「◯◯」の2文字を「◯◯」の2文字とした」と書き入れて署名捺印します。

朗読・閲覧による承認を得てその旨を記載すべきこと

公証人は、作成した証書を列席者に読み聞かせ、又は閲覧させ、嘱託人又はその代理人の承認を得て、かつ、その旨を証書に記載しなければなりません。公証人及び列席者は、各自、証書に署名捺印をしなければなりません。(公証人法第39条

印紙の貼用

公証人は、嘱託人をして印紙税法により証書の原本に印紙を貼用しなければなりません。(公証人法第43条

公文書の形式的証明力

公務員が作成した文書は公文書で、個人や法人が作成した文書は私文書です。公文書は文書の成立について真正である(作成名義人の意思に基づいて作成された)と強い推定が働きます(形式的証明力)

執行証書

債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている金銭債権等の公正証書(強制執行認諾文言付公正証書は執行証書)は、執行力を有するため、債権者は訴訟手続をすることなく強制執行によって債権を回収できます

 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)

引用元:民事執行法第22条第5号

(強制執行の実施)

第二十五条 強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する。ただし、少額訴訟における確定判決又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決若しくは支払督促により、これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行は、その正本に基づいて実施する。

引用元:民事執行法第25条

執行証書は、債務不履行時に期間や費用をかけることなく、比較的容易に債権回収できるのが大きなメリットです。

和解や調停、判決によって執行力ある債務名義を得たとしても、手続中に財産を処分される可能性もあります。その点からしても、執行証書は債権回収の可能性が特に高いといえるでしょう。

債権回収については、別記事を準備中です。

公正証書の種類

公正証書の種類には契約に関する公正証書が代表的ですが、単独行為に関する公正証書や事実実験公正証書もあります。

契約に関する公正証書は、不動産の売買や賃貸借、金銭消費貸借、贈与契約、委任契約、請負契約その他さまざまな合意について利用されています。

公証人は、法令違反や公序良俗違反、行為能力制限による取消しの対象とならないかぎり、どのような内容の契約でも公正証書の作成の嘱託を拒絶することは許されていません。

定期借家契約や任意後見契約など、法令で公正証書の作成が前提とされるケースも増えてきました。

単独行為に関する公正証書とは、1人の意思表示の内容を明らかにする公正証書です。遺言公正証書が該当します。

事実実験公正証書とは、権利義務や法律上の地位に関係する重要な事実について、公証人が実験した結果を記述する公正証書のことです。土地の境界の現況がどうなっているかについて、公証人が実際に確認した結果などが記載されます。事実実験公正証書は、裁判手続においても証拠書面とすることが可能です。

  • 不貞行為やシステム障害など違法状態の確認
  • 尊厳死宣言

事実実験公正証書の手数料は、1時間11,000円+出張日当+旅費とのことで、安くありません。

私署証書の認証

公証人は、株式会社などの定款の認証や私署証書の認証を行っています。認証とは、文書が正当な手続・方式にしたがっていることを公的機関が証明することです。

私文書の成立の真正は、公証人の面前で署名捺印又は記名押印をする方法(目撃認証・面前認証)、公証人の面前で署名捺印又は記名押印を自らしたものであることを自認する方法(自認認証)により、私文書にされた署名捺印又は記名押印が本人のものであることを公証人が証明すること(認証)によって、文書の成立の真正に強い推定が働きます。謄本認証もすることができ、原本と対照し、符号を認めたときはその旨を記載して認証がされます。(公証人法第58条

私署証書の認証についての手数料の額は11,000円ですが、公正証書として作成するとしたときの手数料の額の10分の5の額が11,000円を下回るときは、その下回る額となります。(公証人手数料令第34条第1項

私署証書の認証を受けると、作成名義人本人の意思に基づいて作成されたものであるとの事実の証明になります。文書の内容を真実であることを宣誓すると宣誓認証を受けることが可能です。

宣誓認証

宣誓認証とは、公証人が私署証書に認証を与える場合において、当事者が公証人の面前で証書の記載が真実であることを宣誓したうえで、証書に署名若しくは捺印し、又は証書の署名若しくは捺印を自認したときは、その旨を記載して認証する制度です(宣誓供述書)。(公証人法第58条の2

代理嘱託は認められていません。(公証人法第58条の2第3項

証書の記載を虚偽と知りながら宣誓をした者は、10万円以下の過料に処されます。(公証人法第60条の5

宣誓認証は、陳述書等の正確性を担保するための手段、承認真正を却下された証人の供述などに利用されています。

宣誓認証(日本公証人連合会)

確定日付の付与

個人や法人の記名押印がされた文書を私署証書と呼び、私署証書に公証役場に備え付けられている確定日付印が押されると、その私署証書が確定日付印の日に存在したという事実の証明になります。

確定日付は、債権譲渡の第三者対抗要件として、債務者に通知するときの私署証書や債務者が承諾するときの私署証書に求められています。(民法第467条)(民法施行法第5条

執行証書作成の留意点とは?

金銭消費貸借契約は要物契約であるため、借主が現実に金銭を受け取る必要があります。書面による諾成的金銭消費貸借契約も認められていますが、公正証書の執行力は認めないとする見解が一般的です。

また、期限の利益喪失事由がなければ、期限未到来分についての強制執行はできません。

日本公証人連合会「金銭消費貸借」

公正証書を作成するための必要書類とは?

  • 実印と印鑑登録証明書(マイナンバーカードと認印)(運転免許証と認印)

日本公証人連合会「必要書類」

公正証書を作成するための手数料とは?

公正証書を作成するための手数料は、法律行為に係る証書の作成については、法律行為の目的の価額の区分に応じ、公証人手数料令別表に定めるとおりとされています。(公証人手数料令第9条

給付に係る法律行為の目的の価額

給付に係る法律行為の目的の価額は、次のとおりです。(公証人手数料令第11条

区分
当事者の双方の嘱託によるとき当事者の双方がするべき給付の価額を合算した額
ただし、当事者の一方がするべき給付のみが金銭を目的とするものであるときは、その給付の額の2倍の額
当事者の一方の嘱託によるとき嘱託人がするべき給付の価額
ただし、相手方がするべき給付のみが金銭を目的とするものであるときは、その給付の額

公証人手数料令によって定められており、現金またはクレジットカードで支払います。なお、金銭消費貸借契約と土地の賃貸借契約、土地の売買契約、信託契約などは、印紙税法による印紙の貼付が必要です。

注意したいのは、目的の価額は、当事者の義務額を合計した額となる点です。ただし、当事者の一方のみが金銭の給付を目的とするときは、その額の2倍を目的の価額とされます。

詳しくはリンク先を確認するか、公証役場に問い合わせください。

目的の価額手数料
100万円以下5,000円
200万円以下7,000円
500万円以下11,000円
1,000万円以下17,000円
3,000万円以下23,000円
5,000万円以下29,000円
1億円以下43,000円
3億円以下4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額
10億円以下9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額
10億円超24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額

日本公証人連合会「手数料」

公正証書の執行文付与申立てとは?

執行文とは、強制執行認諾文言付公正証書に、強制執行を行うことができる効力があるかと、その効力の範囲を公的に証明する文書です。債権者の申立てによって、公正証書を作成した公証人が執行文を付します。

債権者○○は債務者××に対し,この債務名義により強制執行することができる。

引用元:簡易地方裁判所「[A] 債務名義に基づく差押え(扶養義務関係を除く)」

(執行文の付与)

第二十六条 執行文は、申立てにより、執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与する

 執行文の付与は、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合に、その旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法により行う。

引用元:民事執行法第26条
  • 執行文付与申請書(実印による押印と印鑑登録証明書)
  • 強制執行認諾条項付公正証書正本
  • 本人確認資料
  • 実印と印鑑登録証明書
  • 返信先を記載したレターパックプラス
  • 手数料(執行文付与1通あたり1,700円、送達申立て1通あたり1,400円、送達証明書1通あたり250円、正本交付手数料1通あたり250円×枚数、特別送達の場合は1通1,125円が目安)

日本公証人連合会「執行文付与申立て」

また、強制執行の申立てをする前に、公証役場で、公正証書正本又は謄本の送達の申立てをして、債務者等に送達をしてもらい、その送達証明書の交付を受けなければなりません。

公正証書正本を紛失した場合は、新たに公正証書の正本の交付を受けます。

電子公証制度とは?

電子公証制度とは、公証人が電子文書について作成者を証明する認証(原則11000円)や、確定日付の付与(700円)を行ってくれる制度です。

認証した電子文書は20年間、電子確定日付に関するデータは50年間保存されます。電子文書と同一である旨の書面の交付による証明書の発行(同一情報の提供)を受けることが可能です。

電子公証は登記・供託オンライン申請システムによって行われます。まずは公証役場の担当者と事前打ち合わせをして、電子文書を作成後に電子署名をします(電子確定日付付与の場合は不要)。続いて登記・供託オンライン申請システムによって電子データを添付ファイルとして、オンライン申請をします。公証人が電子公証を行い、嘱託人は電子データを受け取るという流れです。

電子公証は、テレビ電話を利用すると公証役場に行く必要はありません。電子確定日付の付与の場合も同様です。

日付情報の付与は700円、私署証書(電磁的記録)の認証は原則11,000円、株式会社の定款認証は資本金の額等が100万円未満なら3万円です。また、電磁的記録の保存は300円、情報の同一性に関する証明は700円、同一の情報の提供は700円となっています。

日本公証人連合会「電子公証」

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