支払督促の性質
支払督促のメリット
- オンライン申立ても可能(オンライン訴訟提起も可能になる)
- 申立て手数料が通常の2分の1(訴訟移行した場合も無駄にならない)
- 支払督促の債務者送達日から2週間経過後に仮執行宣言の申立てを行い、仮執行宣言付支払督促の債務者送達までに督促異議の申立てがなければ強制執行が可能
- 債務者が督促異議の申立てをしなければ、低コストかつ迅速に確定判決と同一の効力を有する
支払督促のデメリット
督促異議の申立てがされると、債務者の住所地を管轄する簡易裁判所・地方裁判所での訴訟となる
令和2年度司法統計によれば、支払督促が発付された債務者数のうち、約26.7%が異議を申し立てています。令和4年度は23.1%でした。
「第93表 支払督促が発付された債務者数及び支払督促に対する結果別債務者数―全簡易裁判所」(令和2年度司法統計)
「第93表 支払督促が発付された債務者数及び支払督促に対する結果別債務者数―全簡易裁判所」(令和4年度司法統計)
問題点
慰謝料について支払督促が認められるかどうかについて、裁判所は、認めることもあれば(参考)、「支払督促に馴染まない」などの理由で却下することがあるようです(参考)。
債務者側の手続保障は十分といえる
通常訴訟でも答弁書を提出しなければ原則として原告の請求がすべて認められること、2週間という期間は催告の場合と同じで返答を要する期間として相当といえることからすれば、送達から2週間以内に督促異議の申立てをするだけで通常訴訟に移行するという債務者側の手続保障も十分といえます。
法律上、申立てを却下できるか
法律上、支払督促の申立要件を満たし、却下事由にも該当しないのであれば、裁判所書記官は支払督促を発することができ、申立てを却下する必要はありません。
もっとも、支払督促を発することができるという権利・手続を規定するに過ぎないので、法律上、申立てを認める義務・必要性はないように思えます。
制度としての公平は欠いているのではないか
慰謝料請求という類型だけで支払督促の申立てを却下するような裁判所の運用は、公平を欠くというべき運用です。
支払督促を発するにあたり、裁判所「書記官」が事実を認定する立場にないことは明白です。債務者が督促異議を申立てず債務を認めようものなら自白であり、そもそも事実認定は不要です。債務者が争うようであれば、そこで初めて事実認定の対象となり、しかも支払督促制度上、当然に通常訴訟に移行することで債務者は手続保障がされます。
したがって、他の債権者が認められているところ、慰謝料だからという理由だけで債権者が支払督促をすることができないとするのはまったくもって不公平です。
これを裁判所が「運用」「馴染まない」などの安易な理由を付して却下することは、許されないというべきだと思います。
裁判所は、訴訟が公正迅速に行われるよう努める義務があり、これが裁判所の責務です(民事訴訟法第2条)。
支払督促の要件
支払督促は、日本において公示送達によらないで送達することができる、金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求が対象です。(民事訴訟法第382条)
裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができます。
債務者の住所・居所その他送達をすべき場所が知れていないか、書留郵便に付する送達ができない場合には、公示送達が必要となるため、支払督促は利用できません。
要件を満たさないときは、申立ての却下(処分の)原因となります。相当と認める方法で告知することによって却下処分の効力が発生し、告知を受けた日から1週間の不変期間内に却下処分の異議の申立てをしなければなりません。(民事訴訟法第385条)
支払督促の申立ての方法
支払督促の申立ては、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してします。事務所又は営業所を有する者に対する請求でその事務所又は営業所における業務に関するものは、当該事務所又は営業所の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してもすることができます。(民事訴訟法第383条)
管轄外のときは、申立ての却下(処分の)原因となります。相当と認める方法で告知することによって却下処分の効力が発生し、告知を受けた日から1週間の不変期間内に却下処分の異議の申立てをしなければなりません。(民事訴訟法第385条)
項目 | 内容 |
---|---|
管轄裁判所 | 債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所(民事訴訟法第383条) |
申立て手数料 | 通常訴訟の2分の1(参考記事) ※申立書に貼り付ける |
その他の費用 | 合計1,830円程度(約2,000円) ・支払督促正本送達費用 ※名古屋簡易裁判所は申立書枚数が8枚までなら1,099円分(500円2枚、94円1枚、5円1枚)×債務者数 ※東京簡易裁判所は1,125円分 ・支払督促発付通知費用 ※支払督促の発付と送達結果をあわせて債権者に通知される ※名古屋簡易裁判所は、債権者の宛名を記載した郵便はがき(63円)×債務者数 ・名古屋簡易裁判所は事務連絡用郵便切手168円分(84円2枚) ・資格証明書手数料(オンライン請求500円+郵送交付168円) ・申立書作成及び提出費用(実際には支払わないが、800円を請求できる) |
書類 | ・支払督促申立書(当事者目録、請求の趣旨及び原因を記載する) ※記名押印をする ※原本+債務者数+1通の合計3通以上が必要 ※収入印紙を申立書の右上に貼り付けること(郵送するときに郵便局で購入する) ・債権者又は債務者が法人の場合は、3か月以内に取得した履歴事項全部証明書 ※登記事項証明書には現在事項証明書、履歴事項証明書、代表者資格証明書などの種類があるが、基本的には代表者資格証明書で足りる(法務省、交付申請書の様式、参考) ※登記・供託オンライン申請システム(かんたん証明書請求)を利用したオンライン交付請求が可能。手数料(500円程度)の納付方法はインターネットバンキング可(オンライン交付請求) |
支払督促申立てについて(名古屋簡易裁判所)
郵送での提出も可能です。(最高裁判所)
書式例については、最高裁判所のほか、各簡易裁判所ウェブサイト(東京簡易裁判所、名古屋簡易裁判所)で確認してください。
申立手続費用金は、債務者に請求することができます。
申立て手数料
支払督促正本送達費用
申立書作成及び提出費用
支払督促発付通知費用
資格証明書手数料(民事訴訟費用法第2条第7号)
督促手続オンラインシステムとは、定型的処理が可能な支払督促事件(貸金・立替金・求償金・売買代金・リース料)について、インターネットを利用して申立てや照会等の手続を行うことができるシステムです。仮執行宣言の申立てもできます。
個人の場合は、単数申立用インタフェースという申立方式を使用し、マイナンバーカードが必要です。
請負代金、修理代金、工事代金、給料、賃料、損害賠償、過払金など、上記以外の申立類型については、督促手続オンラインシステムを利用した申立てはできません。
支払督促の効果
支払督促の発付
支払督促は、債務者を審尋しないで発します。(民事訴訟法第386条第1項)
支払督促の記載事項
支払督促には、次の掲げる事項を記載し、かつ、債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てをしないときは債権者の申立てにより仮執行の宣言をする旨を付記しなければなりません。(民事訴訟法第387条)
- 給付を命ずる旨
- 請求の趣旨及び原因
- 当事者及び法定代理人
支払督促の送達
支払督促は、債務者に送達しなければなりません。(民事訴訟法第388条第1項)
債権者が申し出た場所に債務者の住所、居所、営業所若しくは事務所又は就業場所がないため、支払督促を送達することができないときは、裁判所書記官は、その旨を債権者に通知しなければなりません。この場合において、債権者が通知を受けた日から2月の不変期間内にその申出に係る場所以外の送達をすべき場所の申出をしないときは、支払督促の申立てを取り下げたものとみなします。(民事訴訟法第388条第3項)
支払督促の発効
支払督促の効力は、債務者に送達された時に生じます。(民事訴訟法第388条第2項)
仮執行宣言
債務者が支払督促の送達日から2週間以内に督促異議の申立てをしないときは、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続の費用額を付記して、仮執行の宣言をしなければなりません。ただし、その宣言前に督促異議の申立てがあったときは、この限りではありません。(民事訴訟法第391条第1項)
仮執行の宣言は、支払督促に記載し、これを当事者に送達しなければなりません。ただし、債権者の同意があるときは、当該債権者に対しては、当該記載をした支払督促を送付することをもって、送達に代えることができます。(民事訴訟法第391条第2項)
仮執行宣言の申立てを却下する処分は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生じます。(民事訴訟法第391条第3項が民事訴訟法第385条第2項を準用)
仮執行宣言の申立てを却下する処分に対する異議の申立ては、その告知を受けた日から1週間の不変期間内にしなければなりません。(民事訴訟法第391条第3項が民事訴訟法第385条第3項を準用)
仮執行宣言の申立てを却下する処分に対する異議の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができます。(民事訴訟法第391条第4項)
支払督促の失効
仮執行宣言前の督促異議の申立て
債務者は、支払督促に対し、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に督促異議の申立てをすることができます。(民事訴訟法第386条第2項)
仮執行の宣言前に適法な督促異議の申立てがあったときは、支払督促は、その督促異議の限度で効力を失います。(民事訴訟法第390条)
仮執行宣言の失効
宣言又は本案判決を変更する判決の言渡し
仮執行の宣言は、その宣言又は本案判決を変更する判決の言渡しにより、変更の限度においてその効力を失います。(民事訴訟法第391条第5項が民事訴訟法第260条第1項を準用)
期間の徒過による支払督促の失効
債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から30日以内にその申立てをしないときは、支払督促は、その効力を失います。(民事訴訟法第392条)
仮執行の宣言後の督促異議
仮執行の宣言を付した支払督促の送達を受けた日から2週間の不変期間を経過したときは、債務者は、その支払督促に対し、督促異議の申立てをすることができません。(民事訴訟法第393条)
督促異議の却下
簡易裁判所は、督促異議を不適法であると認めるときは、督促異議に係る請求が地方裁判所の管轄に属する場合においても、決定で、その督促異議を却下しなければなりません。督促異議の却下の決定に対しては、即時抗告をすることができます。(民事訴訟法第394条)
督促異議の申立てによる訴訟への移行
適法な督促異議の申立てがあったときは、督促異議に係る請求については、その目的の価額に従い、支払督促の申立ての時に、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなします。この場合においては、督促手続の費用は、訴訟費用の一部とします。(民事訴訟法第395条)
支払督促の効力
仮執行の宣言を付した支払督促に対し督促異議の申立てがないとき、又は督促異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は、確定判決と同一の効力を有する。(民事訴訟法第396条)
執行力はありますが、既判力はないとされています。
仮執行宣言の失効後の原状回復
本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければなりません。(民事訴訟法第391条第5項が民事訴訟法第260条第2項を準用)
仮執行の宣言のみを変更したときは、後に本案判決を変更する判決について、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければなりません。(民事訴訟法第391条第5項が民事訴訟法第260条第3項を準用)
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