消滅時効の意義・性質
消滅時効とは、契約締結のほか、債務不履行や不法行為による利益の喪失などによって権利が発生した場合において、権利者が権利を行使することができる時(民法第166条第1項より、時効の起算日)から一定期間権利を行使しないときに、信義誠実の原則に従い義務者などが義務による生涯の拘束から解かれるべき利益を保護するため(民法第145条、民法第152条、民法第167条、民法第168条に基づく筆者解釈)、権利の消滅が完成するという法律効果を発生させる制度です。
確定、承認があれば義務者の保護を図る必要はないから時効は新たに進行を始める。
裁判所など第三者に主張するためには、援用が必要である。
手続により権利の行使(債権の保全?)をしようとしたときの間は時効は完成せず、裁判外で権利を行使しようとした時から6か月も時効は完成しない
時効の起算日とは
時効の利益とは、事実状態の維持か?忘れてもらう利益か?義務による生涯の拘束から解かれる利益か?
時効の効力は、時効の起算日にさかのぼります。(民法第144条)
消滅時効は、当事者、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者が援用しなければ、裁判所が時効によって裁判をすることはできません。(民法第145条)
時効の利益は、あらかじめ放棄することはできません。(民法第146条)
裁判上の請求や支払督促、裁判上の和解、調停、破産・再生・更生手続参加がある場合、事由終了(権利が確定しない場合は終了から6か月を経過する)まで時効の完成は猶予され、権利が確定したら時効が更新します。(民法第147条)
実体上の権利が消滅するか?
消滅時効は、債権者が権利を原則5年間行使しないとき、相手方が援用することによって裁判上の請求が認められなくなる制度です。
たとえば、入出金履歴は10年以上も昔のものは残っていないこともあるでしょう。お金を返したはずなのに証拠が準備できないこともあるため、証拠活動が困難になる者を救済するという趣旨があります。また、「権利の上に眠る者は保護しない」という趣旨からも消滅時効は設けられています。(参考)
長期間継続した事実状態の維持が法律関係の安定のために必要であり、権利の行使を怠り権利の上に眠っている者は法の保護に値しないこと、古い過去の事実について立証が困難であることなどから、
消滅時効は、基本的には5年間と認識しておきましょう。
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅します。
消滅時効の意義・性質
時効の利益はあらかじめ放棄することはできません(民法第146条)
なぜ?第三者も援用できるから?
時効になったら、援用の放棄はできるということね?
消滅時効の要件
時効は、消滅時効の場合、当事者、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者が援用することによって、裁判所は時効による裁判ができます。(民法第145条)
消滅時効の完成猶予及び更新
権利が確定することなくその事由が終了した場合時効の完成が猶予されるのはなぜ?
取下げはどうなる?
勝訴は?
敗訴は?
裁判上の催告のほうがよいということ?
強制執行・担保権の実行・担保権の実行としての競売・財産開示手続・情報取得手続がある場合には、その事由が終了するまでの間、時効は完成しません。申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消し(却下)によってその事由が終了した場合は、その事由が終了時から6か月を経過するまでの間、時効は完成しません。取下げ又は却下を除き、事由終了時から、新たに時効が進行を始めます。(民法第148条)
仮差押え・仮処分がある場合には、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません。(民法第149条)
催告があったときは、催告時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません。完成猶予中の再度の催告は、完成猶予の効力はありません。(民法第150条)
書面(電磁的記録も可)で権利についての協議を行う合意がされたときは、最長1年以内で定めた協議期間までは時効の完成が猶予されますが、協議開始から6か月以内に書面による協議続行拒絶通知(電磁的記録も可)があれば、時効の完成猶予は通知から6ヶ月までです。(民法第151条)
権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、合意から1年を経過した時、1年未満で定めた協議期間を経過した時、当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされた場合の通知の時から6か月を経過した時のうち、いずれか早い時までの間、時効は完成しません。
消滅時効の完成の効果
時効の効力は起算日にさかのぼる(民法第144条)ため、消滅時効の場合、権利者の権利の行使を制限できるだけでなく、権利者の権利を起算日からなかったものにできます。
例えばどうなる?
権利 | 主観的起算点 | 客観的起算点 | 条文 |
---|---|---|---|
一般債権 | 5年間 | 10年間 | 民法第166条第1項 |
債権又は所有権以外の財産権 | 20年間 | – | 民法第166条第2項 |
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権 | 5年間 (民法第724条の2) | 20年間 | 民法第167条 |
定期金債権 | 10年間 | 20年間 | 民法第168条 |
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利 | 確定時に弁済期が到来している債権に限り、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、10年 | 民法第169条 | |
不法行為による損害賠償請求権 | 3年間 | 20年間 | |
電子記録債権 | - | 3年間 | 電子記録債権法第23条 |
主観的起算点:権利者が権利を行使することができることを知った時
客観的起算点:権利を行使することができる時
不法行為による損害賠償請求権
不法行為による損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間行使しないときは時効によって消滅します。(民法第724条)
時効の完成猶予と更新
債務名義がない債権者にとって最も都合が良いのは、債務者による承認です。承認を得ると時効は更新(ゼロからスタート)します。そのため、債権者としては利息部分だけでも支払いを促すなどの対応をすると、時効の更新は得られやすいでしょう。
円満解決を図る意図があるのであれば、書面協議合意によって1年間の完成猶予を得ることも考えられます。ただし債権回収はスピードも求められるため、即座に6か月間の完成猶予となる催告をするか、仮差押え(事由終了から6か月完成猶予)に進んで本訴訟を提起するとよいでしょう。
協議期間は最長1年ごとに再度協議の合意ができますが、本来の時効完成時期から通算5年以内に限定されます。(民法第151条第2項)
催告と書面協議合意の完成猶予は併用できないため、時効の完成猶予としては催告か書面協議合意どちらを利用するかを検討しなければなりません。(民法第151条第3項)
承認
権利の承認があれば時効は更新します。(民法第152条)
債務の一部弁済や支払猶予の要請、利息の支払い、相殺の主張、担保の承認などがあった場合は、承認にあたるとされています。債権者の権利行使に対して異議を述べなかったり、和解の意思表示をしただけでは承認にあたりません。(参考1、2)
時効完成後の債務の承認
まず、次の2つの規定について検討します。
- 不法行為による損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間行使しないときは時効によって消滅します。(民法第724条)
- 裁判所は、当事者が時効を援用しなければ時効によって裁判をすることができません。(民法第145条)
不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは時効によって消滅します(民法第724条)が、裁判所は、当事者が時効を援用しなければ時効によって裁判をすることができません(民法第145条)。
つまり、裁判所は、当事者が時効を援用しなければ、不法行為による損害賠償請求権は消滅していないものとして裁判をしなければなりません。
民法第724条により、当事者が援用しなくても実体法において損害賠償請求権が消滅すると解することは、民法第145条の存在意義がなくなるため無理があるというべきでしょう。
しかし、一般的に考えて「時効は、当事者が援用しなければ、効力を生じない」と規定せず、あえて「援用しなければ、裁判所がこれ(時効)によって裁判をすることができない」と規定していることが引っかかります。時効の消滅に関する規定を見ると、援用は必要とされていません。
現状、消滅時効は、時効が完成しても債務者の意思によって存続させることができ、援用することによって確定的に消滅させることができるものと解するほかありません。しかし、民法第724条の規定だけを見ると、消滅時効の完成によって確定的に権利が消滅しないことには違和感があります。
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