相続の効力(相続分・遺産分割・担保責任)

部会資料
「積残しの論点について(2) 民法相続関係部会資料21」(法務省)
「補足説明(要綱案のたたき台⑴) 民法相続関係部会資料22-2」(法務省)
「補足説明(要綱案のたたき台⑵) 民法相続関係部会資料23-2」(法務省)
「補足説明(要綱案のたたき台⑶) 民法相続関係部会資料24-2」(法務省)
「要綱案のたたき台⑶の補充 民法相続関係部会資料24-3」(法務省)
「補足説明(要綱案のたたき台⑷) 民法相続関係部会資料25-2」(法務省)
「「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」に対して寄せられた意見の概要(詳細版) 民法相続関係部会参考資料」(法務省)

相続の効力の意義・性質

相続が開始すると、(各共同)相続人は、相続開始の時から、その指定相続分、なければ法定相続分(民法第898条第2項)に応じて、被相続人の一身に専属したものを除き、債務を含む(民法第873条の2第2号民法第927条括弧書)被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継(包括承継)します。(民法第896条民法第899条

順位指定相続分法定相続分
代襲相続分
第1順位自由配偶者:2分の1
直系卑属:2分の1を直系卑属間で均等に分ける
※(再)代襲相続人(孫)は被代襲者(子)と同じ
第2順位自由配偶者:3分の2
直系尊属:3分の1を直系尊属間で均等に分ける
第3順位自由配偶者:4分の3
傍系卑属:4分の1を傍系卑属間で均等に分ける
(被相続人と)父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、(被相続人と)父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1
※代襲相続人(甥又は姪)は被代襲者(兄弟姉妹)と同じ
民法第900条、代襲相続人の相続分については民法第901条

遺産分割するまで(遺産共有関係が終了するまで)は抽象的な権利といわれることもありますが、相続の効果として権利義務を承継すると規定されている以上、承継した共有持分は、実体上の権利といわなければなりません(最判平成17年10月11日民集59巻8号2243頁)。

相続財産に対する共有持分(承継割合)といえる相続分を譲渡することができる(民法第905条)こと、実体上の権利である共有持分の処分を制限する理由はないこと、遺産分割前(遺産共有状態の解消前)に処分された場合は原則として遺産分割の対象とならないと定められており処分も認められていること(民法第906条の2)から、預金債権の持分を含めて、相続財産に属する個々の財産も譲渡などの処分をすることができると解すべきでしょう。そうでなければ、相続分は譲渡できるのに、承継した特定財産の権利(共有持分権)は譲渡できないという不合理な理論になります。

当然ですが、共同相続では、相続財産は共同相続人の共有に属します(遺産共有)。(民法第898条第1項

共同相続では、数人で賃借権、債権、預金契約上の地位など所有権以外の財産権を有することとなるため、これらの財産権の法的性質は準共有民法第264条)といえます。

預貯金、株式(株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位)、投資信託受益権、国債も準共有であって可分債権ではないため、遺産分割の対象となる財産(遺産共有にある)とされています。(最判平成26年2月25日民集68巻2号173頁

遺産分割前に預金の払戻しなど債権の弁済の受領を含む財産の処分があった場合は、遺産共有状態とはいえないため、遺産分割の対象外となる(民法第906条の2第1項最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁)と解します。代償財産も遺産共有状態ではなく、遺産分割の対象外と解すべきです。

遺産分割は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、共同相続人の協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができるというものです(民法第907条第1項)。「することができる」とあるとおり、必ずしなければならないものではありません。

共有物分割との違いは、1個の財産だけでなく遺産という包括の財産が対象であること、各相続人の年齢や職業、心身の状態、生活の状況その他一切の事情を考慮すること(民法第906条)、被相続人が遺言で分割を禁じることができること(民法第907条第1項)、手続が非公開(家庭裁判所の審判手続)で行われる(民法第907条第2項)こと、被相続人が分割の方法を指定することができること(民法第908条第1項)、遺産分割の効果は相続開始時に遡及すること(民法第909条)です。(最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁

分割債権・分割債務の規定(民法第427条)は、「数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う」です。

簡単にいうと、「数人の債権者がある場合において、各債権者は、等しい割合で権利を有する」とあります。言い換えると、「1個の債権がある場合において、数人の債権者は、各割合で権利を有する」といえるでしょう。

1個の債権の中で、各共有者の持分があると定めたに過ぎません。当然分割するというのであれば、民法第427条「割合で権利を有し」というわけがありません

また、相続が開始すると、各共同相続人は、相続開始の時から、その指定相続分、なければ法定相続分(民法第898条第2項)に応じて、被相続人の一身に専属したものを除き、債務を含む(民法第873条の2第2号民法第927条括弧書)被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するわけです(民法第896条民法第899条)。預金債権であっても、預金債権の相続分(持分)が各共同相続人に固有に帰属したことは否定できません

したがって、1個の預貯金契約上の地位(預貯金債権)を共同相続した場合において、各共同相続人は、具体的相続分に応じて債権共有持分を有すると解すべきです。そして、具体的相続分に応じて権利を行使(払戻し)した場合、弁済を受けた限りにおいて、各共同相続人の債権共有持分は消滅するといえます。

大審院大正9年12月22日判決民録26輯2062頁では、可分債権は法律上当然分割され、各遺産相続人が平等の割合に応じて権利を有すること民法427条の法意からして明白としました。分割されとはありますが、筆者は、準共有債権は、各共同相続人に持分があることを示したに過ぎないと考えます。

遺産相続人数人アル場合ニ於テ其相続財産中ニ金銭債権存スルトキハ其債権ハ法律上当然分割セラレ各遺産相続人カ平等ノ割合ニ応シテ権利ヲ有スルコト民法427条ノ法意ニ徴シ洵ニ明白ナリ

引用元:大審院大正9年12月22日判決民録26輯2062頁(デジタルデータなし)

続いて最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁は、平等ではなく「相続分に応じて」として具体的にしました。

相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする

引用元:最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁

続いて最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁は、遺産共有は民法249条以下の共有と性質を異にするものではないと解すべきとしたうえで、上記判例を参照しました。

相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解すべきである。

遺産の共有及び分割に関しては、共有に関する民法二五六条以下の規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によつて著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのであつて、民法九〇六条は、その場合にとるべき方針を明らかにしたものに外ならない。

引用元:最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁

最判昭和52年9月19日集民121号247頁は、各共同相続人が自己の持分を譲渡したときは、遺産共有状態ではなくなることを示したと解することができます。

共同相続人が全員の合意によつて遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができるものと解すべき

引用元:最判昭和52年9月19日集民121号247頁

最判昭和54年2月22日集民126号129頁は、上記判例を参照しつつ、代償財産も原則として分割取得し遺産共有状態ではないとしました。

共有持分権を有する共同相続人全員によつて他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである

引用元:最判昭和54年2月22日集民126号129頁

1 事案の概要

(1) 遺産分割申立事件

(2) 相続関係

  • 被相続人A(平成24年3月相続開始)
  • 法定相続人
    • 養子(抗告人)
      ※孫
    • 養孫(代襲相続人)(相手方)
      ※妹
  • 特別受益:被代襲者は被相続人Aから約5,500万円の生前贈与(特別受益)を受けている
  • 遺産:不動産(258万1995円)(+預貯金債権)
    ただし、共同相続人間で預貯金を遺産分割の対象とはしていない

2 原審の判断

預貯金は当然分割取得したのであり、(特別受益があるので)養子が不動産を取得すべきとした。

3 最高裁大法廷の判断

最高裁大法廷は、遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であること、入金や口座振替といった事務処理の委任を含む預貯金契約上の地位(準共有)であること、死亡後も同一性を保持しながら常にその残高が変動し得る1個の預貯金債権であること、分割帰属するなら相続人ごとに残高を管理しなければならないことは預貯金契約の当事者の合理的意思に反することから、共同相続された預金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないと判断しました。

ただ、筆者は、民法第427条が適用されないとしても、相続分に応じた持分が各共同相続人に承継されたことまでは否定できないと考えています。結局は相続分に応じて、固有に権利(持分)を有するといわなければならないでしょう。仮に預金の払戻しがあったら遺産共有状態とはならず遺産分割の対象外、預金の払戻しがなければ遺産共有状態のままであり遺産分割の対象になるというべきです。

一般的には,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく,また,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,現金のように,評価についての不確定要素が少なく,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在することがうかがわれる。

具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であるという点においては,本件で問題とされている預貯金が現金に近いものとして想起される

(中略)預貯金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には,預貯金の返還だけでなく,振込入金の受入れ,各種料金の自動支払,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務の性質を有するものも多く含まれている(最判平成21年1月22日民集63巻1号228頁)。そして,これを前提として,(中略)預貯金は決済手段としての性格を強めてきている。

一般的な預貯金については,(中略)預貯金債権の存否及びその額が争われる事態は多くなく,預貯金債権を細分化してもこれによりその価値が低下することはないと考えられる。

共同相続の場合において,一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提としながら,遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われてきているが,これも,以上のような事情を背景とするものであると解される。

相続人全員の合意の有無にかかわらずこれを遺産分割の対象とすることができるか否かにつき検討する。

(中略)普通預金契約及び通常貯金契約は,(中略)継続的取引契約であり,(中略)発生した預貯金債権は,口座の既存の預貯金債権と合算され,1個の預貯金債権として扱われるものである。

(中略)(預金者が死亡した場合、)預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し,各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される

そして,相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが,預貯金契約が終了していない以上,その額は観念的なものにすぎないというべきである。預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じて分割され,その後口座に入金が行われるたびに,各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高に,入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは,預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり,その合理的意思にも反するとすらいえよう。(筆者注釈:相続開始時に分割帰属→入金時に分割帰属として口座を管理するのは、銀行が大変過ぎる)

(中略)共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。(筆者注釈:結果、相続人全員の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象とすることができると判断)

4 意見

(1)裁判官岡部喜代子

金銭債権は準共有(民法第264条)となるが、その特則として民法第427条により分割されて相続人の数だけ債権が存在することとなると考えられている。しかし、分割を阻害する要因があれば分割されずに準共有状態のまま存続すると解することが可能。例えば口座振替契約の解約は、相続人全員で行わなければならない。また、1個の預貯金契約に共同相続人ごとに残高の異なる複数の預貯金債権が存在するという事態が生じざるを得ない。

共同相続人間の実質的公平を実現するという趣旨に鑑みて、特別受益(民法第903条)や寄与分(民法第904条の2)でいう「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」は、分割債権も含まれると解すべき。分割債権を含めた遺産総額を基に具体的相続分を算定し、当然分割による取得額を差し引いて各相続人の最終の取得額を算出すべきである。

ただ、当然に分割されると考えられる可分債権はなお各種存在し、預貯金債権が姿を変える場合もあり得るところ、それらについては上記のとおり具体的相続分の算定の基礎に加えるなどするのが相当であると考える。

(2)裁判官大谷剛彦,同小貫芳信,同山崎敏充,同小池裕,同木澤克之の補足意見

預貯金債権は、遺産分割までの間、共同相続人全員が共同して行使しなければならないこととなる。そうすると、被相続人の債務の弁済、被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費などにより預貯金を遺産分割前に払戻す必要があるのに全員の同意を得られずに不都合が生ずるのではないかが問題となり得る。(改正前は)遺産分割の審判を本案とする保全処分として、仮分割の仮処分の活用がされていた。

(3)裁判官鬼丸かおるの補足意見

①相続開始後に相続財産から生じた果実
②相続開始時に相続財産に属していた個々の財産が相続開始後に処分等により相続財産から
逸出し,その対価等として共同相続人が取得したいわゆる代償財産
(例えば,建物の焼失による保険金,土地の売買代金等)(筆者注:相続財産の換価とみる)
③相続開始と同時に当然に分割された可分債権の弁済金等が被相続人名義の預貯金口座に入金された場合(筆者注:相続財産の換価とみる)

これらの入金額が合算された預貯金債権が遺産分割の対象となる(このことは,果実,代償財産,可分債権がいずれも遺産分割の対象とならないと解されることと矛盾するものではない。)。

この場合,相続開始後に残高が増加した分については相続開始時に預貯金債権として存在したものではないところ,具体的相続分は相続開始時の相続財産の価額を基準として算定されるものであることから(民法903条,904条の2),具体的相続分の算定の基礎となる相続財産の価額をどう捉えるかが問題となろう

この点については,相続開始時の預貯金債権の残高を具体的相続分の算定の基礎とすることが考えられる一方,上記②,③の場合,当該入金額に相当する財産は相続開始時にも別の形で存在していたものであり,相続財産である不動産の価額が相続開始後に上昇した場合等とは異なるから,当該入金額に相当する相続開始時に存在した財産の価額を具体的相続分の算定の基礎に加えることなども考え得るであろう。

もっとも,具体的相続分は遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するのであるから(最判平成12年2月24日民集54巻2号523頁),早期にこれを確定することが手続上望ましいところ,後者の考え方を採る場合,相続開始後の預貯金残高の変動に応じて具体的相続分も変動し得ることとなり,事案によっては具体的相続分の確定が遅れかねないなどの遺産分割手続上の問題が残される。従来から家庭裁判所の実務において,上記①~③の財産も,共同相続人全員の合意があれば具体的相続分の算定の基礎ないし遺産分割の対象としてきたとみられるところであり,この問題については,共同相続人間の実質的公平を図るという見地から,従来の実務の取扱いとの均衡等も考慮に入れて,今後検討が行われることが望まれよう。

(4)裁判官木内道祥の補足意見

(遺産分割の審判における取得財産の決定について)遺産分割時に存在する財産をその時点の価額で評価した上で,各相続人の具体的相続分の割合に応じて,各相続人が取得する財産が定められる。

しかるに,債権については,その有無,額面額及び実価(評価額)について共同相続人全員の合意がある場合を除き,一般的に評価が困難というべきである。そのため,債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとすると,各相続人の具体的相続分の算定や取得財産の決定が困難となり,遺産分割手続の進行が妨げられ,その他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができないという事態を生ずるおそれがある。

共有状態にある相続財産については各相続人の権利行使が制約されることを考慮すると,このような状態はなるべく早く解消されるべきである。

債権を広く一般的に遺産分割の対象としようとして具体的相続分の算定が困難となり,その他の相続財産についても遺産分割の審判をすることができず,相続財産に対する各相続人の権利行使が制約される状態が続くことは,遺産分割審判制度の趣旨に反する。

したがって,額面額をもって実価(評価額)とみることができない可分債権については,上記合意がない限り,遺産分割の対象とはならず,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものと解するのが相当である。

なお,民法903条,904条の2は,同法第5編第3章第3節「遺産の分割」の前に位置するが,遺産分割の基準である具体的相続分を算定するためのものであるから,遺産分割の対象とならない上記可分債権は,これらの規定にいう「相続開始の時において有した財産」には含まれないと解される。

これに対して,預貯金債権の場合,支払の確実性,現金化の簡易性等に照らし,その額面額をもって実価(評価額)とみることができるのであるから,上記可分債権とは異なり,これを遺産分割の対象とすることが遺産分割の審判を困難ならしめるものではない。

したがって,預貯金債権は,共同相続人全員の合意の有無にかかわらず,遺産分割の対象となると解するのが相当である。

(5)裁判官大橋正春の意見

問題は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割される可分債権を遺産分割において一切考慮しないという現在の実務(以下「分割対象除外説」という。)にあるといえる。

これに対して,私は,可分債権を含めた相続開始時の全遺産を基礎として各自の具体的相続分を算定し,これから当然に分割されて各自が得した可分債権の額を控除した額に応じてその余の遺産を分割し,過不足は代償金で調整するという見解(以下「分割時考慮説」という。)を採用すべきものと考える。

「遺産全体」が相続開始時において被相続人の財産に属した一切の権利義務(同法896条)を指すことには疑問がない。

したがって,遺産分割とは,相続開始時において被相続人の財産に属した一切の権利義務を具体的相続分に応じて共同相続人に分配することであるといえる。

これに対して,分割対象除外説は,遺産を構成する個々の相続財産の共有関係(同法898条)を解消する手続が遺産分割であると捉え,かつ,可分債権について共有関係が生じないと解して,可分債権は遺産分割の対象とならないものとする。

しかし,個々の相続財産の共有関係を解消する手続は,遺産全体を具体的相続分に応じて共同相続人に分配するという遺産分割を実現するための手続にすぎないのであるから,この意味における遺産分割の適切な実現を阻害する分割対象除外説を採用することはできず,分割時考慮説が正当なものと考えられる

分割対象除外説によれば,遺産分割時に預貯金が残存している場合には,具体的相続分に応じた分配をすることができるのに対し,共同相続人の1人が被相続人の生前に無断で預貯金を払い戻した場合には,被相続人が取得した損害賠償請求権又は不当利得返還請求権について具体的相続分に応じた分配をすることができない。

これに対して,分割時考慮説によれば,後者の場合においても具体的相続分に応じた分配をすることができ,結果の衡平性という点においてより優れている。また,遺言をしない被相続人の中には法律の規定に従って遺産分割が行われることを期待した者がいると考えられるところ,法律の専門家でない一般の被相続人としては,遺産を構成する債権が可分債権であるか否かによって結果は異ならないと期待していたと考えるのが自然である。

したがって,分割対象除外説は被相続人の期待に反する結果を生じさせるものということができる。

分割時考慮説を採用することにより,家事審判事件が増加し,家庭裁判所の負担が増加することが考えられる。しかし,家庭裁判所の実務では当事者の合意を前提に可分債権を遺産分割の対象とすることがかなりの範囲で行われていること,分割時考慮説と分割対象除外説とで極端な結論の違いが生ずるのはまれで,多くの場合には具体的相続分と法定相続分の乖離は小さいと推測されることなどからすると,家庭裁判所における適正な事務処理を阻害するような著しい負担の増加はないであろうと考える。

よって,分割対象除外説に基づく原決定を破棄し,分割時考慮説に基づき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当であると考えるものである。

最後に,普通預金債権及び通常貯金債権を準共有債権とすると,問題の根本的解決にならないばかりか新たな不公平を生み出すほか,被相続人の生前に扶養を受けていた相続人が預貯金を払い戻すことができず生活に困窮する,被相続人の入院費用や相続税の支払に窮するといった事態が生ずるおそれがあること,判例を変更すべき明らかな事情の変更がないことなどから,普通預金債権及び通常貯金債権を可分債権とする判例を変更してこれを準共有債権とすることには賛成できないことを指摘しておきたい

最決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁。なお、最判平成16年4月20日集民214号13頁最判昭和53年12月20日民集32巻9号1674頁最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁など判例は変更すべきである。大法廷において反対意見はありません

遺産分割前でも、他の共同相続人が単独名義で所有権を登記しているときは、共有持分権に基づく妨害排除請求権として、自己の持分についての一部抹消等の登記手続を求めることができます。さらに、法律上の権限なく自己の債権となった分以上の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができます。(最判平成16年4月20日集民214号13頁

共同相続人は、単独で、預金口座の取引経過の開示を求める権利を行使できます最判平成21年1月22日民集63巻1号228頁)。おそらく、準共有における保存行為と解されているのでしょう。取引経過の開示は、他の共有者の持分を侵害することは考えにくく、正当な判断だと考えます。

なお、特別受益制度(民法第903条第1項)や寄与分(民法第904条の2第1項)の制度がありますが、相続トラブルの種となる可能性があるため、遺言において特別受益制度の適用を排除する意思表示(民法第903条第3項)をしたうえで、かつ、全財産を漏れなく誰かに遺贈する意思表示(民法第904条の2第3項)をしておきましょう

対外関係においては、遺産分割をした後であっても法定相続分を超える部分については対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない民法第899条の2第1項)ため、早めに遺産分割協議をしたうえで登記や債務者への承継の通知(民法第899条の2第2項)などをして、対抗要件を備えることが重要です

法定相続分を超える部分を対抗するには、遺産分割協議より遺言書のほうがスムーズであるため、相続開始後の相続人の生活などを考慮して、遺言書を作成しておくことをおすすめします。被相続人の債務については、指定相続分があるかどうかにかかわらず債権者は各共同相続人(相続放棄すれば共同相続人ではない)に対して法定相続分に応じて債権を行使することができるため、それを防ぐために指定相続分に応じて債務を承継したことを早めに債権者に通知しておく必要があります(民法第902条の2)。

また、内部関係においても注意が必要です。各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分(具体的相続分)に応じて、債権の回収困難など想定外の欠陥があったときには、求償に応じるため償還責任(担保の責任)(民法第913条)を負います。(民法第911条)(民法第912条第1項

窪田充見 (神戸大学教授)/著『家族法 民法を学ぶ 第4版』(有斐閣、2019年)405頁

相続分(権利義務の承継割合)

同順位の相続人が数人あるとき、共同相続人の相続分は、被相続人が遺言で共同相続人全員の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託したときを除き民法第902条)、次のとおりです。(民法第900条、代襲相続人の相続分については民法第901条

順位指定相続分法定相続分
代襲相続分
第1順位自由配偶者:2分の1
直系卑属:2分の1を直系卑属間で均等に分ける
※(再)代襲相続人(孫)は被代襲者(子)と同じ
第2順位自由配偶者:3分の2
直系尊属:3分の1を直系尊属間で均等に分ける
第3順位自由配偶者:4分の3
傍系卑属:4分の1を傍系卑属間で均等に分ける
(被相続人と)父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、(被相続人と)父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1
※代襲相続人(甥又は姪)は被代襲者(兄弟姉妹)と同じ
民法第900条、代襲相続人の相続分については民法第901条

指定相続分

被相続人は、法定相続分にかかわらず遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができます。(民法第902条第1項

被相続人が共同相続人のうち1人でも相続分を定めなかった、又はこれを第三者に定めさせなかったときは、定めなかった共同相続人の相続分は、法定相続分により定めます。(民法第902条第2項

妻子2人が相続人であるとき、妻の指定相続分が3分の2のときは、子の相続分は残りの3分の1とならざるを得ません。子の指定相続分が3分の2のときも妻の相続分は3分の1です。

妻1人、子2人が相続人であり、子Aの指定相続分が3分の2とされた場合、残された妻子は3分の1の相続分を法定相続分の定めによります。妻子いずれも第1順位であり、各2分の1ずつなので、3分の1を2分の1ずつ分けて妻は6分の1、子Bは6分の1となります。

特別受益者の相続分

多くの場合、遺贈や生前贈与はその相続人に財産を多く遺そうとしてした意思があると考えています。したがって特別受益制度は、余計なお世話となることが多いでしょう。

特別受益制度自体、どの生前贈与が適用対象になるのか、昔の生前贈与など、贈与財産の価額はどう評価するのか、超過特別受益時はどう取扱うかなど、解釈の余地を多く残した立法であるため、本規定の適用は必ず避けるべきだと考えています。

したがって、少なくとも自筆証書遺言で「民法第903条(特別受益者の相続分)第3項の規定に基づき、同条第1項及び第2項の規定は適用しない。」とだけでも記載しておくのがおすすめです。

被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた共同相続人があるときは、被相続人が相続開始の時において有した(積極)財産の価額にその贈与(遺贈は加算しない)の価額を加えた(持ち戻した)ものを相続財産とみなし、指定相続分(ないときは法定相続分)の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とします。(民法第903条第1項

特別受益者の相続分=(相続財産+生前贈与)に対する指定相続分又は法定相続分の価額-特別受益の価額

遺贈と生前贈与は、相続分とは別に保障されるのではなく、相続財産に持戻して相続分から即時に分割して取得したものとして計算されてしまうため注意が必要です。

他の共同相続人も、持戻し後のみなし相続財産を対象に相続分の価額を算定します。

特別受益が(みなし相続財産に対する本来の)相続分以上であるときは、特別受益者は、(みなし)相続分を受けることはできません(民法第903条第2項)。第2項の「相続分」がどの相続分を指すかは必ずしも明らかではありませんが、本条の趣旨から無理やりにでもこのように解釈すべきでしょう。

昔の10円は今では100万円相当といった場合、生前贈与の価額(10円)を贈与時の価額(10円)のまま採用するのは不公平であり、特別受益制度の趣旨にも反します。そこで、生前贈与時の利益は、相続開始時の貨幣価値に換算した価額で評価すべきとされています。(最判昭和51年3月18日民集30巻2号111頁

特別受益に該当するかどうかは、実際にそのような生前贈与があったとしても、他の共同相続人と比較して特別な受益といえるかどうかによって判断します。
窪田充見 (神戸大学教授)/著『家族法 民法を学ぶ 第4版』(有斐閣、2019年)414頁

生前贈与の価額は、受贈者の行為によってその目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなして定めます。(民法第904条

超過特別受益のとき、超過特別受益者の具体的相続分は0又はマイナスになり、他の共同相続人は、みなし相続財産について本来の相続分を受け取ることができません。特別受益者のマイナス分をどう処理するかというと、指定相続分若しくは法定相続分又は具体的相続分に応じて負担させる方法があります。
窪田充見 (神戸大学教授)/著『家族法 民法を学ぶ 第4版』(有斐閣、2019年)421頁

被相続人は、特別受益制度を適用しない意思表示をすることができ、その意思表示は優先されます民法第903条第3項)。

婚姻期間20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他方に対し、被相続人の居住用建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、特別受益制度を適用しない意思表示をしたものと推定します(民法第903条第3項)。

生命保険金は相続財産に含まれないとされ、さらに、一部の共同相続人の保険金請求権は、被相続人が死亡した時に初めて発生し、払込保険料と等価関係ではなく、被相続人の稼働能力に代わる給付でもないから、実質的に被相続人の財産に属していたとみることもできないとされています。したがって、生命保険金は特別受益には当たらないと解するのが相当とされています。ただし、保険金請求権の取得費用である保険料は被相続人が生前に支払ったものであり、他の共同相続人との間に生ずる不公平が特別受益制度の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が損する場合には、類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当ともしています。(最決平成16年10月29日民集58巻7号1979頁

相続開始の時から10年以内の遺産分割について適用することができます。(民法第904条の3

寄与分

寄与分は共同相続人の協議で定めることが前提となっており、協議で定まらなければ家庭裁判所の審判を受けなければなりません。寄与分の算定は、簡単ではないでしょう。

また、特別寄与者の相続分が加算される規定はありますが、結局、他の相続人の相続分が減少する規定はありません。

つまり寄与分制度も、相続トラブルの種だと考えています。

幸いにも第3項で寄与分は相続開始時の財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできないとされているため、できる限り遺言で全財産を遺贈して、寄与分を考慮する余地を防いでおくことをおすすめします

被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした共同相続人があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、法定相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とします。(民法第904条の2第1項

被代襲者の寄与も、代襲相続人に承継したということができます。相続人ではない親族の寄与は、特別寄与料制度によって対応できる場合があります。
窪田充見 (神戸大学教授)/著『家族法 民法を学ぶ 第4版』(有斐閣、2019年)443頁

寄与分を定める協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、寄与者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定めます民法第904条の2第2項)。遺産分割審判と共に請求できます(民法第904条の2第4項)。

寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません。(民法第904条の2第3項

相続開始の時から10年以内の遺産分割について適用することができます。(民法第904条の3

取戻権(相続分の譲渡)

共同相続人が遺産分割前に相続分を第三者に譲渡したときは、1か月以内に、他の共同相続人は、譲渡された相続分の価額及び費用を償還して、譲渡された相続分を譲り受けることができます。(民法第905条

相続分の譲渡が可能であることからすれば、個々の財産の共有持分を譲渡することも妨げられないと解釈できます。

譲渡しても、相続債務は、債権者の同意がなければ譲受人と連帯して弁済義務を負担することになるので注意が必要です。

無償譲渡は、第三者側に贈与税が発生します。有償譲渡の場合、譲渡人は譲渡所得税がかかります。

遺産分割協議に参加したくない人が、自己の相続分を第三者に譲渡するケースが考えられます。相続放棄の申述が間に合わなかった人などでしょうか。

相続分の対外関係(相続と登記など)

相続による権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、対抗要件を具備しなくても相続人は法定相続分については第三者に対抗することができます。法定相続分を超えて第三者に対抗するためには、対抗要件の具備が必要です。(民法第899条の2第1項

(改正)不動産登記法第76条の2では、所有権の登記名義人について相続の開始があったとき、相続人に対してなされた遺贈があったときは、当該相続又は遺贈により所有権を取得した者は、自己のために相続又は遺贈の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないこととされています。

法定相続分の登記がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければなりません。(改正不動産登記法第76条の2第2項)

なお、対象となる不動産を特定し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らがその相続人である旨を申し出ることにより、相続登記の申請義務を履行したとみなす相続人申告登記制度も開始します。オンライン上で申出を完結することも可能です。

令和6年4月1日から施行されます。

相続登記は、戸籍全部事項証明書などについて市区町村長が電子署名を付していないため、オンライン完結はできません。まずは添付書面をスキャンしてオンライン申請し、その後、添付書面の原本を登記所に持参又は送付することとなります。(法務局

登録自動車の所有者に相続が開始した場合、相続人に名義変更(移転登録)をする必要があります。

申請書、手数料納付書、自動車検査証、法定相続情報証明証明書、新所有者の印鑑証明書、自動車保管場所証明書のほか、次のいずれかの書類が必要です。

  • 相続人全員の実印を押印した遺産分割協議書
  • 遺言書
  • 遺産分割調停調書
  • 遺産分割審判書
  • 判決謄本

相続による移転登録は複雑なので、運輸支局に問い合わせてください。

相続による債権の承継は、法定相続分を超えて承継した共同相続人が遺言又は遺産分割の内容を明らかにして債務者に承継の通知をしたときは、共同相続人全員が債務者に通知をしたものとします。(民法第899条の2第1項

債権者は、指定相続分にかかわらず、法定相続分については各共同相続人に債権を行使することができます。共同相続人の1人に対して、指定相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りではありません。(民法第902条の2

債権譲渡は、譲渡人が債務者に通知をしなければ第三者に対抗することができない(民法第467条第1項)ところ、遺言で相続人に対する遺贈や相続分の指定がされたとき、遺産分割したときは、法定相続分超え承継をした共同相続人が遺言・遺産分割の内容を明らかにして承継の通知をしたときから、第三者に対抗することができます。

相続の放棄をすると各共同相続人とはならなかったものとみなされるため、債権を行使されません。

この規定だけでは、債権者が指定相続分の債務の承継を承認しないだけで、複数の相続人に債権を行使できることになってしまいます。

未登記の不動産の相続

被相続人が不動産を第三者に譲渡したが、登記をしないまま相続が開始した場合はどうなるかが問題です。

実体として、生前に被相続人が第三者に譲渡したため、不動産の所有権は実体的に第三者にあります。相続が開始しても第三者の所有権を承継したということはできません

他方、登記上は、相続登記によって被相続人から相続人に登記名義を変更することができます。

この場合、相続登記があっても、実体と異なるため相続人が第三者対抗要件を具備することはありません。(民法第177条、物権の得喪及び変更→登記→対抗力獲得)

他方、相続人は譲渡をした被相続人の承継者であり、譲受人は譲渡について当事者である相続人に対抗することができます。相続人は、登記義務者としての地位を承継しているため、譲受人と共同して登記を申請する必要があります。

窪田充見 (神戸大学教授)/著『家族法 民法を学ぶ 第4版』(有斐閣、2019年)518頁

法定相続分を超える譲渡

共同相続人の1人が遺産分割協議前に不正な手段で自己の単独所有とする相続登記をして、その後に不動産を譲渡して売買を原因とする所有権移転登記をした場合、自己の持分を超えて所有権を移転することはできないため(無権利の登記)、登記があっても譲受人は所有権を取得することはできません(他の共同相続人は、登記がなくても相続分を対抗できる)。譲渡人である共同相続人の持分については、権利の取得は認められます。(最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁

遺産分割

遺産の分割とは、遺言で5年以内の期間を定めて禁じられた場合(民法第908条第1項)又は共同相続人・包括受遺者が5年以内の期間を定めて分割をしない旨の契約をした場合(民法第908条第2項)を除き、いつでも(民法第256条と同じ)、一切の事情を考慮して(民法第906条)、遺言で定められた遺産の分割の方法(民法第908条第1項)、定めがなければ共同相続人・包括受遺者の協議により、共同相続人・包括受遺者間で遺産の全部又は一部の分割(帰属を決める)をすることができるものです。(民法第907条第1項

遺産分割の考慮事情

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して遺産の分割をします。(民法第906条

遺言と異なる分割

遺言による定めと異なる分割をすることができるかどうか不確定です

判例は、遺言で遺産の分割の方法を定めた遺言があれば共同相続人は拘束され、これと異なる協議・審判はなし得ないとします。(最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁

他方、さいたま地判平成14年2月7日は、上記判例を参照しながらも、遺言者の意思は紛争を避けることにあり、異なる内容の遺産分割が相続人の協議によってされたとしても、異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別、直ちに遺言者の意思に反するとはいえないとしました。遺言者の意思に拘束される必要はなく、むしろ全相続人の意思が一致するなら承継当事者たる相続人の意思を尊重することが妥当としています。

なお、異なる遺産分割については、相続人間における遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であるとしていること、従前から遺言があってもこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたことに言及しているのも特徴的です。

さらに、判例に対しては、筆者は少しむりやりだと思いますが、迅速妥当な紛争解決を図る趣旨から遺産分割協議を不要としたのであって、異なる分割ができず無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきとしています。

葬儀費用(葬式の費用・葬式費用)・お墓

相続において、葬儀費用の負担の帰属とその範囲が問題とされています。

非常に詳しい資料

葬式の費用の先取特権について

葬式の費用によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産に対し、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額の先取特権を有します(民法第306条民法第309条第1項)。ここでいう「債務者」とは、「死者」とするのが通説です(参考)。

葬式費用の債権者(主に葬儀社)は、相続財産に対して、相当な額の先取特権を有します。

しかし、喪主が葬儀社と契約を締結した場合、喪主のためにされた葬式として、喪主は「債権を有する者(先取特権者)」ではないと判断されています。死者のためにされた葬式費用の立替払をした者であれば、先取特権を有する債権者となるようです。

また、葬儀費用の負担者を定めた規定ではないと解されています。

故人が生前に自ら自己の葬式について契約をしていた場合は、先取特権が認められるでしょう。

東京高裁平成21年10月20日決定 (金融法務1896号88頁)、参考

葬式費用の先取特権を実行し、差押命令が発せられた事例があるようです。

葬式費用の範囲

以下一連のプロセスを葬式と考え、この間に生じる費用を葬式費用とすることがあります。(参考

  • 通夜
  • 告別式
  • 火葬
  • 初七日、四十九日の法要
  • 納骨

具体的には次のとおりです。飲食接待費(24、26、29)や墓地・墓石の対価(19。祭祀財産であるため。)には争いがあります。

  • 棺枢その他葬具の費用
  • 葬式場設営の費用
  • 読径の費用(葬儀社ではない業者のために支払う費用)
  • 火葬の費用(葬儀社ではない業者のために支払う費用)
  • 人夫の給料
  • 墓地の代価
  • 墓標の費用
  • 飲食接待費(葬儀社ではない業者のために支払う費用)
  • 返礼品(葬儀社ではない業者のために支払う費用)
  • 霊柩車・寝台車(葬儀社ではない業者のために支払う費用)

葬儀費用・葬式費用には、死体検案書発行費用、死亡届費用、死体運搬費用、葬具、葬式場設営、読経料、火葬料、人件費、墓地代が含まれ、法事費用、飲食代金、納骨代、仏壇仏具は含まれないと解されています。(東京地判昭和61年1月28日判タ623号148頁、名古屋高判平成24年3月29日参考

墓地の建築費用を含まないとした裁判例があります。(東京地裁平成14年12月13日判決・判例秘書、参考

初7日とは、仏教において亡くなってから49日間は7日ごとに閻魔大王が極楽浄土に行けるかどうか閻魔大王が審判を下すとの考えから、命日を含めた7日目に、成仏を願うために行われる法要(自宅で読経してもらうこと)です。読経料(お布施)の相場は3~5万円。近年では、参列者に再度足を運んでもらう手間や遺族の負担軽減のため、葬儀と一緒に行う繰り上げ法要が主流となっています。

葬儀費用の負担者

葬儀は誰の義務でもないほか、葬式費用の負担者は条文上明らかでないため、解釈に委ねられています。しかし、統一された確定的な解釈はありません

結論、特に法律の規定がないこと、香典や葬祭料(健康保険の給付)は喪主が取得することから、契約責任として喪主が負担するほかないと考えられます

問題は、「香典-香典返し+葬祭料」によって支弁してもなお不足する葬儀費用です。これを一律に喪主の負担とすることで、誰も葬儀を行わないモラルハザードが生じるかもしれません。(相続分も実質的に減る)

葬儀費用を、被相続人の財産に属した義務(相続債務)と構成できるか?
※葬儀費用は故人本人が準備すべきとの考え方
※先取特権が一応の根拠となる。
遺体自体を祭祀財産とし、祭祀承継者の負担と構成できるか?

葬儀費用は喪主ではない相続人の相続分に影響しかねないから、相続人と協議するのが理想である(もっと安くできたなどの文句が生じる)。その協議も経ないで喪主が負担したのであれば、その費用を負担させることはできないというべきか。

最高裁は、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為が死体遺棄罪の「遺棄」に当たると解するのが相当であるとし、他者が死体を発見することが困難な状況を作出する隠匿行為が「遺棄」に当たるか否かを判断するに当たっては、それが葬祭の準備又はその一過程として行われたものか否かという観点から検討しただけでは足りず、その態様自体が習俗上の埋葬等と相いれない処置といえるものか否かという観点から検討する必要があるとしました。自室で、出産し、死亡後間もない本件各えい児の死体をタオルに包んで段ボール箱に入れ、同段ボール箱を棚の上に置くなどした行為は、死体を隠匿し、他者が死体を発見することが困難な状況を作出したものであるが、それが行われた場所、死体のこん包及び設置の方法等に照らすと、その態様自体がいまだ習俗上の埋葬等と相いれない処置とは認められないから、刑法190条にいう「遺棄」に当たらないと判断しています。(最判令和5年3月24日

学説・判例根拠問題点
喪主・葬儀社等に対し、 葬式に関する諸手続を依頼し、これに要する費用を交渉・決定し、 かつ、 これを負担する意思を表示するのは 主宰者だからである。主宰者が自らその債務を葬儀社等に対し、 負担したものというべき
東京地判昭和61年1月28日家月39巻8号48頁
神戸家審平成11年4月30日家月51巻10号135頁
・故人の妻(専業主婦)が故人の預金から引き出して支弁することは認められないことになる。
・一部の相続人が葬式費用を負担し、 他の相続人には責任はないとすると相続人間においても費用負担の不均衡が生じる
参考
相続人相続債務として各相続人に分割承継されるとするもの
※遺産分割の対象ではなく、法定相続分として捉えている
東京高決昭和30年9月5日家月7巻2号57項
・葬式費用は、各相続人がその相続分に応じ当然分割承継して負担すべきものであって、本来遺産分割の対象となるものではないし、また、相続人の一人がほかの相続人らに代わって相続債務等を立替支出したときは、他の相続人に対し求償権を有することが明らかである(後略)
長崎家審昭和51年12月23日家月29巻9号110頁
■遺産分割時に共同相続人の負担とするもの
※具体的相続分を考慮する。相続財産負担説と変わらない。
・葬式費用は相続人間の債務である
大阪高決昭和49年9月17日家月27巻8号65頁

こちらにも相続人または相続債務とした裁判例がある

参考
葬式費用は、 被相続人の死亡後に生ずるため、 このような費用を被相続人の債務としてどのように構成するのか(参考
・労働基準法などは、必ずしも相続人が行うことを前提としているものではない。
・葬儀社等との間に、 何らの債務負担行為をしていない者が特段の事情もなく、 これを負担すると解することは、 相当ではない。
東京地判昭和61年1月28日家月39巻8号48頁
・根拠が明確でない
・葬式に関する契約に一切関与していない相続人になぜ支払義務が発生するのか
・相続人全員が相続放棄をした場合に、誰がその費用を負担することになるのか
参考
相続財産民法第885条を根拠とするもの
※相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。
・葬式費用に支出した分は、身分不相当な支出と認められないかぎり、相続財産に関する費用として、本来相続財産の負担に帰すべきものであ(後略)
長野家審昭和55年2月1日家月34巻4号83頁

民法第306条民法第309条第1項を根拠とするもの
※葬式の費用(原因)によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について先取特権を有する。

・葬儀費用は相続財産・遺産から支出されることが予定されている
・社会生活における慣習として当然営まれるべきものであり、いわば死者の社会生活の延長若しくは跡始末の性格を有する
・ 民法306条、309条1項が死者の身分に応じてなされた葬式の費用につき相続財産に対する先取特権を認めた趣旨等を考慮すると、本件のように相続人全員が相続放棄をした場合に、 被相続人の生前の社会的地位に応じた葬式費用は、 これを相続財産の負担として、 同財産中から支弁することも許容されるものと解するのが相当
東京地判昭和59年7月12日判時1150号205頁
・元来葬儀費用は相続財産の負担とするのが相当である。
大阪家審昭和51年11月25日家月29巻6号27頁
大阪家庭裁判所昭和53年9月26日家月31巻6号33頁

こちらにも相続人または相続債務とした裁判例がある。
民法第885条を根拠とするものに対して
・遺産の管理費には該当しないことが明らかである
大阪高決昭和49年9月17日家月27巻8号65頁
・相続財産に関する費用(民法885条)は、相続財産を管理するのに必要な費用、換価、弁済その他清算に要する費用など相続財産についてすべき一切の管理・処分などに必要な費用をいうものと解されるのであつて、死者をとむらうためにする葬式をもつて、相続財産についてすべき管理、処分行為に当たるとみることはできないから、これに要する費用が相続財産に関する費用であると解することはできない。
東京地判昭和61年1月28日家月39巻8号48頁
民法第306条民法第309条第1項を根拠とするものに対して
・葬儀費用が(相続財産を対象として)先取特権になる旨を規定したにすぎず、誰が負担すべきかを定める規定ではない。
名古屋高判平成24年3月29日
東京高裁平成21年10月20日決定
・先取特権を根拠にするなら、身分相応でない部分は誰が負担するのか、別個に根拠を求めざるを得ないし、相続財産が不十分であれば、債権者に不測の損害を被らせることとなり相当でないし、身分相応分とそうでない分を区別して負担者を別にするのも当を得ない。
東京地判昭和61年1月28日家月39巻8号48頁
・実施挙行するのはあくまでも死者ではなく遺族等の死者に所縁のあるものであることからすれば、 葬儀の費用は相続債務と見るべきではなく
神戸家審平成11年4月30日家月51巻10号135頁
・葬式費用は、 被相続人の死亡後に生ずるため、 このような費用を被相続人の債務としてどのように構成するのか
・喪主が相続人以外の第三者である場合にも、 相続財産が葬式費用を負担することになるのか
参考
慣習・条理当該地域や親族間の慣習を考慮して、 条理に照して判断するほかないと思われる
東京地判平成6年1月17日判タ870号248頁
・何人が葬式を行い又その費用を負担すべきかについては特に法律の定めがなく、 従て専らその地方又は死者の属する親族団体内における慣習若は条理に従て決するの外はない。 民法第897条も右とその趣旨を同くするものと解せられる。
甲府地判昭和31年5月29日下民集7巻5号1378頁
・慣習説は、 かつては、 葬儀が地域の近隣の人々によって営まれた時代には、 そのような地域の慣習というものも存在したであろうが、 現代社会においてはそのような慣習というものはなかなか見出すことができないのではないか。
・実際のところ具体的な慣習の存在について言及するものはなく、 むしろ 「慣習はない」 として、 「共同相続人の負担」 もしくは 「喪主の負担」 とすべきなど他の法理に依拠する形となっている。
参考
松倉説①被相続人の指定があれば最優先で処理するのを原則とする
②相続人等関係者の合意のあるときは合意による
③意見不統一のときは、 より場合わけして検討する
→ 「相当額の支出」 であるかぎり、相続人が負担
→ 「相当額以上の支出」 は、 「葬儀主宰者の負担」

遺骸,遺骨の埋葬等の行為に要する費用については,亡Eの祭祀を主宰すべき者が負担すべきものであ(後略)

引用元:名古屋高判平成24年3月29日

神戸家裁平成11年4月30日審判・家庭裁判月報51巻10号135頁(参考)、東京地裁平成14年12月13日判決・判例秘書(参考)、名古屋高判平成24年3月29日参考)、も同旨。

参考

ChatGPT(gpt-4o)の見解
  • 相続財産負担説を支持する。
  • 民法第885条(相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。)、民法第306条・第309条に基づく説であり、法的枠組みが明確。
  • (民法第896条と整合しないから、法的な問題がある)
  • 被相続人のための支出は、原則として遺産から支払われるべきである。
  • 喪主負担説のように、特定の相続人に負担が集中する不均衡も生じず、公平性も保たれる。
  • 故人の遺産から葬儀費用を支払うことは、合理的である。
  • 葬儀は故人の社会的な最期の行事であり、社会的に見ても故人の財産から支払われるのが自然
  • 身分不相当な追加の費用や相続財産が不十分な場合は、喪主や親族が負担して調整するほか、公的支援が必要。
  • 葬儀費用が死後に発生するものであるという点については、遺産分割の一部として考慮すべき
  • 喪主と相続人は、分担について事前に合意形成を図ることが重要。
  • 現行法に照らし合わせると喪主負担説を支持すべきだが、実務上の対応としては、事前の合意形成や適切な法的手続きを通じて葬儀費用を相続財産から適切に負担する方法を講じることが現実的。

祭祀財産・祭祀とは、祖先をまつる系譜(家系図)、祭具(位牌、仏壇、仏像)、墳墓(ふんぼ)のこと。通常は、お墓や仏壇のこと。被相続人の指定や相続人の協議によって祭祀財産の所有権の承継者を定めますが、最終的には家庭裁判所が決めます。(民法第897条

争う場合には遺産分割調停・審判ではなく民事調停・民事訴訟手続において、葬儀費用を決めた儀式の主宰者(=自己の責任と計算において儀式を準備し、手配等して挙行した者=喪主)の負担となるでしょう

ただし、相続人でない者が負担した場合や故人が生前に葬式に関する債務を負担していた場合は相続人が分担するのが相当とされています。

相続人でない者が葬儀費用を負担した場合

なお、相続人でない者が葬儀費用を負担した場合、相続人は、条理上、葬儀及び納骨などの諸費用のうち死者を弔うのに直接必要な儀式費用を相続分に応じて分担すべきとした裁判例もあります。

(津地裁平成14年7月26日判決・判例秘書、参考

内縁の配偶者などでしょうか。

相続人全員が相続放棄をした場合

相続人全員が相続放棄をした場合は、被相続人の生前の社会的地位に応じた葬式費用は、これを相続財産の負担として、同財産中から支弁することも許容されるものと解するのが相当とした裁判例があります。

東京地裁昭和59年7月12日判決・判例タイムズ542号243頁、参考

故人が生前に葬式に関する債務を負担していた場合・亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結していた場合

「葬儀費用の負担者」直下記載のとおり。

相続財産で支弁できるならまだしも、支弁できない場合は相続人の固有財産から持ち出すことになるため抵抗が出やすく、相談もなく喪主が高い葬儀費用を選んだという点でも争いが生じやすくなるので注意が必要です。(参考

喪主としても、葬儀社との打ち合わせや参列者へのお礼、挨拶といった負担をしたのにもかかわらず、葬儀費用すら負担していない他の相続人が相続分をしっかり相続することには納得がいかないでしょう。(参考

葬式は慣習であり、喪主だけに費用を負担させるのは不公平との考え方に基づき、相当な葬式費用については相続人が共同で負担すべきとした裁判例もあります東京高決昭和30年9月5日)。相続財産で負担すべきとする裁判例も、結果として同じでしょう(東京地判平成24年5月29日(新しい)、民法第885条(相続財産に関する費用)に含まれるとしたもの(盛岡家審昭和42年4月12日))。

葬儀費用について遺族が争わないように、以下のような対策が求められます。(参考

  • 生前に契約しておく(被相続人)
  • 死亡保険・葬儀保険で備えておく(被相続人)
  • 相続人全員で、葬式の内容や費用について合意しておく(相続人)
    ※少なくとも、他の遺族に葬儀について通知したり、葬儀会社を通じて意見を求めたりする(参考)(参考
  • 葬儀費用といっても、葬儀会社に支払った費用(搬送費)、火葬費用、納骨費用、死亡診断書の発行費用、墓の購入費用、初7日、49日法要、読経料などさまざまなので、範囲も明確にしておくこと。(参考
    • 葬儀社から発行を受ける請求書などの書類では、できる限り細かく内訳を記載してもらうとよいでしょう。

また、争いがあることも考慮して、次のような対策もしておきましょう。

  • 負担額を証明できるように、明細や領収書を残しておく
  • 香典の額も争いが生じる可能性があるので、香典袋や内訳の記録を保管しておくとよい(参考
  • 相続財産から葬儀費用を引き出した場合に返還義務を免れることができるか(これが多い
  • 遺留分の算定(葬儀費用は相続債務かどうか)

葬儀費用と遺産分割との関係

相続開始後に葬儀社と契約を締結して発生した葬儀費用債務は、相続開始時点の権利義務とはいえないので遺産とはいえず、遺産分割の対象外となります。

葬儀費用の負担についての遺産分割協議書記載例

第◯条 被相続人Aの葬儀に要した別紙葬儀費用明細書記載の金◯◯◯万円について、相続人Bが◯万円、相続人Cが◯万円、相続人Dが◯万円をそれぞれ負担する。

相続人Cは、相続人Bに対して、令和◯年◯月◯日限り、葬儀費用の負担分◯万円を、下記の銀行口座に振り込む方法により支払う。

第〇条 相続人Bは、別紙遺産目録記載の現金から、相続人Bが支出した被相続人Aの葬儀に要した費用の精算として、金○○○万円を取得する。

ごとう司法書士事務所

行政書士鉾立榮一郎事務所

税理士事務所ウェルタックス

弁護士法人デイライト法律事務所

黙示的使用貸借

相続開始前から被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、その2人の間に、遺産分割により所有関係が確定するまでは、引き続き同居相続人に無償で使用させる旨の合意があったと推認されます。(最判平成8年12月17日民集50巻10号2778頁

内縁の配偶者その他の親族についても同様です。(最判平成10年2月26日民集52巻1号255頁

遺産分割協議のやり直し(債務不履行解除)

共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除したうえで、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではないと解されています(最判平成2年9月27日民集44巻6号995頁)。

一方で、遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても、相続人間の債権債務関係が残るだけであるため、他の相続人は、既に終了した遺産分割協議を解除することはできません。このように解さなければ、遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることも理由とされています(最判平成元年2月9日民集43巻2号1頁)。

合意解除は可能だが、債務不履行解除はできない

遺産分割前の遺産に属する財産の処分

遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができます。(民法第906条の2第1項

前項の規定にかかわらず、共同相続人の1人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しません。(民法第906条の2第2項

不分割契約の更新

不分割契約は更新することもできますが、期間の終期は相続開始の時から10年以内にしなければなりません。(民法第908条第2項、第3項

遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りではありません。(民法第907条第3項

遺産分割の遡及効

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じます。ただし、第三者の権利を害することはできません。(民法第909条

つまり遺産分割の効力は、相続人間では相続開始時に遡及し、第三者との関係では遺産分割時に生じます

相続人間:相続開始時
第三者:(権利を害されることがあれば)遺産分割時

共有持分の処分が遺産分割の内容と抵触する場合

相続人Aが遺産分割前に、自己が承継した不動産の共有持分を第三者に譲渡し、譲渡後の遺産分割では相続人Bが不動産の所有権を全部取得した場合を検討します。

遡及効を適用すると、第三者は無権利者である相続人Aとの取引が無効です。しかし、遡及は第三者の権利を害することはできないため、相続人Aの共有持分については有効に取得が認められます

相続人AとBとの間では、相続人Aは他人の持分を処分したことにになるのが問題です。

遺産確認の訴え

ある財産が遺産に含まれるかどうかについては、遺産確認の訴えをすることができます。遺産分割審判では既判力が生じませんが、遺産確認の訴えでは既判力が生じます。

窪田充見 (神戸大学教授)/著『家族法 民法を学ぶ 第4版』(有斐閣、2019年)504頁

家庭裁判所の判断

特別の事由があるときは、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができます。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができません。(民法第908条第4項

家庭裁判所は、5年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができます。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができません。(民法第908条第5項

遺産分割前の預貯金債権の行使(遺産分割前の預貯金の払戻し=仮払い)

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に、各共同相続人の法定相続分・代襲相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額=150万円を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができます。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなします。(民法第909条の2)(最決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁

遺産分割前に預貯金債権の行使(払い戻し請求)をするのは、1個の債権の価額を処分することになるため準共有者全員の同意がなければすることができないはずです。

最決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁も、預貯金債権は当然には分割されないため、それまでは準共有状態にあり、遺産分割の対象となると判断しました。

しかし、当面の生計費、葬式費用などを考慮すると被相続人名義の預貯金債権を相続人が遺産分割前に払い戻す必要性はあるため、1行につき150万円を限度として死亡時の3分の1に対する法定相続分については単独で払い戻しができ、払い戻した分については当然分割されることとしました

仮に死亡時残高300万円だったとき、その3分の1である100万円のうち配偶者の法定相続分2分の1である50万円を単独で払い戻して取得することができます。

本来は配偶者2分の1、子2分の1であるところ、遺言により子が3分の2の相続分を指定されていた場合、配偶者は3分の1となるところ、本規定により2分の1の預貯金を払い戻しできることになってしまいます。どのように調整するのでしょうか?

相続財産に関する費用を支弁するときは、この規定は適用されないはずだが、どうか?

共同相続人間の担保責任

各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分(具体的相続分)に応じて担保の責任を負います。(民法第911条

遺産分割協議の承継した土地が土壌汚染されていた、債権の回収が困難であったなど想定外の欠陥があったとき、各共同相続人は、その不利益が生じた共同相続人のために、相続分に応じて損害を補償しなければなりません。

各共同相続人は、その相続分(具体的相続分)に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保します。(民法第912条第1項

弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保します。(民法第912条第2項

担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担します。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができません。(民法第913条

担保責任については、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しません。(民法第914条

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