- 個別的遺留分とは、相続開始時の残余財産に10年内の特別受益などを加算した額に対して、兄弟姉妹以外の相続人らに留保された最低限の権利承継割合です。生前贈与や特定財産承継遺言、相続分の指定などに影響を受けないことが特徴です。
- 配偶者は2分の1、配偶者と直系卑属なら配偶者が4分の1、直系卑属は4分の1を等分します。
- 遺留分を算定するための財産の価額=死亡時財産(遺贈含む)+生前贈与財産-債務
遺留分侵害額請求権の意義・性質
(個別的)遺留分とは、生前贈与や遺贈、特定財産承継遺言、指定相続分など被相続人の意思にかかわらず遺留分権利者(兄弟姉妹以外の相続人及びその承継人)に留保された、相続開始時の残余財産(用語法について民法第688条第1項第3号、民法第935条、民法第959条参照)に相続人に対する贈与は相続開始前10年間の特別受益に当たるもの、相続人以外は相続開始前1年間にしたもの(民法第1044条第1項)を加算した額(民法第1043条第1項)に対する、最低限の権利承継割合(下表の個別的遺留分)です(民法第1042条)。
相続人 | 個別的遺留分 |
---|---|
配偶者のみ | 2分の1 |
配偶者と直系卑属 | 配偶者:4分の1 子:4分の1を等分 |
配偶者と直系尊属 | 配偶者:3分の1 直系尊属:6分の1を等分 |
配偶者と傍系卑属 | 配偶者のみ2分の1 |
直系卑属のみ | 2分の1を等分 ※通常子2人なので4分の1以下となる |
直系尊属のみ | 3分の1を等分 |
傍系卑属のみ | なし |
欠格者・相続放棄者・被廃除者は相続権がないため、遺留分権利者とはなりません。また、遺留分は放棄することもできます。相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、相続の開始後は単独で、放棄の効力を生じます(民法第1049条第1項)。共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません。(民法第1049条第2項)
遺留分権利者及びその承継人は、最低限の権利承継割合(個別的遺留分)を確保するために、受遺者・特定財産承継者・相続分の指定を受けた相続人・受贈者に対し、「遺贈・特定財産承継・相続分の指定・相続人に対する相続開始前10年間の特別受益に当たる贈与・相続人以外に対する相続開始前1年間にされた贈与(民法第1044条第1項)による取得の価額-個別的遺留分」を限度として、相続開始に近い取得者から昔の取得者の順で(同時期なら取得額の割合に応じて)(民法第1047条第1項)、遺留分侵害額(個別的遺留分-遺留分権利者の特別受益-遺留分権利者の寄与分を考慮しない具体的相続分+共同相続による遺留分権利者承継債務の額)に相当する金銭債権(遺留分侵害額請求権という形成権)を行使できます(民法第1046条)。
遺留分権利者は、受遺者・特定財産承継者・相続分の指定を受けた相続人に対して、その人の個別的遺留分を超える取得の価額を限度に、
遺留分侵害額の請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき、相続開始の時から10年を経過したときは、時効によって消滅します。(民法第1048条)
遺留分割合
兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・直系卑属・直系尊属)は、遺留分として、遺留分を算定するための財産の価額に、下表の割合を乗じた額を受けます。(民法第1042条)
区分 | 割合 |
---|---|
直系尊属のみが相続人である場合 | 3分の1×法定相続分 |
上記以外の場合 | 2分の1×法定相続分 |
2分の1又は3分の1は総体的遺留分と呼ばれ、総体的遺留分に法定相続分を乗じたものが個別的遺留分と呼ばれます。
遺留分を算定するための財産の価額
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額(負担付贈与は、目的の価額-負担の価額、民法第1045条第1項)を加えた額から債務の全額を控除した額とします。(民法第1043条第1項)
遺留分を算定するための財産の価額=死亡時財産(遺贈含む)+生前贈与財産-債務
※生前贈与財産には、原則、相続人に対する特別受益に当たるものは死亡前10年(第3項)、相続人でない者に対するものは死亡前1年以内のものを算入する。(民法第1044条第1項)
生前贈与を考慮しなければ遺留分制度は骨抜きにされてしまうこと、贈与の有無で不均衡が生じてしまうことから、生前贈与も考慮します。一方で、すべての贈与とすると受贈者に不測の出費を強いることになり、本来自由な被相続人の財産処分を制限しすぎることにもなります。そのため、一定期間内の贈与に限り算入することとされました。
本山敦 青竹美佳 羽生香織 水野貴浩 著『家族法[第3版]』(日本評論社、2021年)243頁
贈与財産の価額は、相続開始時の現状で評価します。(最判昭和51年3月18日民集30巻2号111頁)
不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなします。(民法第1045条第2項)
債務免除や財団法人設立のための財産の拠出は、贈与にあたります。
本山敦 青竹美佳 羽生香織 水野貴浩 著『家族法[第3版]』(日本評論社、2021年)243頁
債務が控除されるのは、遺留分権利者よりも相続債権者の満足を優先すべきだからです。
本山敦 青竹美佳 羽生香織 水野貴浩 著『家族法[第3版]』(日本評論社、2021年)243頁
条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定めます。(民法第1043条第2項)
遺留分算定時の贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定めます。(民法第1044条第2項が民法第904条を準用)
遺留分侵害額の請求
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者・特定財産承継遺言による承継者・相続分の指定を受けた相続人又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます。(民法第1046条第1項)
遺留分侵害額は、遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定します。(民法第1046条第2項)
- (控除)遺留分権利者が受けた遺贈又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与=特別受益の価額
- (控除)特別受益考慮後の法定相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
- (加算)被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、共同相続により遺留分権利者が承継する債務(遺留分権利者承継債務)の額
(遺留分を算定するための財産の価額×遺留分割合)-特別受益-
受遺者又は受贈者の負担額
受遺者・相続分の指定を受けた相続人・受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈・指定相続分・特別受益に当たる贈与の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額、負担付贈与は、目的の価額-負担の価額、民法第1045条第1項を準用)を限度として、遺留分侵害額を負担します。(民法第1047条第1項)
- 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する
※生前贈与のほうが遺留分侵害額の請求を受けにくい - 受遺者・相続分の指定を受けた相続人が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者・特定財産承継遺言による承継・相続分の指定を受けた相続人又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う
- 受遺者・特定財産承継遺言による承継・相続分の指定を受けた相続人が複数あるとき(前号に規定する場合を除く)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する
遺贈又は贈与の目的の価額は、受遺者又は受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定めます。(民法第1047条第2項が民法第904条を準用)
条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定めます。(民法第1047条第2項が民法第1043条第2項を準用)
不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなします。(民法第1047条第2項が民法第1045条第2項を準用)
遺留分侵害額の債務者が無資力である場合も、遺留分権利者の負担となります。(民法第1047条第4項)
遺留分侵害額の請求を受けた受遺者・特定財産承継者・相続分の指定を受けた相続人・受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって負担する債務を消滅させることができます。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅します。(民法第1047条第3項)
裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができます。(民法第1047条第5項)
遺留分侵害額請求権の期間の制限
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも、消滅します。(民法第1048条)
参考書籍等
本山敦 青竹美佳 羽生香織 水野貴浩 著『家族法[第3版]』(日本評論社、2021年)241頁
片岡武・管野眞一/著『改正相続法と家庭裁判所の実務』(日本加除出版、2019年)216頁
小池信行/監修 吉岡誠一/著『新しい相続制度の解説 改正相続法の解説と相続制度のあらまし』(日本加除出版、2019年)66頁
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