配偶者居住権の意義・性質
配偶者居住権は、相続開始時に被相続人の建物に無償で居住していた配偶者が、他の共有者に対価償還義務を負うことなく、遺産分割が確定するまで、最短でも6か月以上、通常は遺産分割が確定するまでは引き続き無償で居住をすることができる一身専属権です。
遺贈・協議・審判により配偶者居住権の取得が認められれば、原則として終身まで、第三者対抗要件を備えて無償居住ができます。
配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 | ||
要件 | 相続開始時居住形態 | 無償居住 有償居住 | 無償居住 |
夫婦外の共有持分があった場合 | 対象外 | 対象 | |
欠格・廃除 | 取得できる ※全共有者又は遺言者の意思を優先する | 取得できない | |
取得原因 | 遺贈・協議・審判 ※所有者の不利益の程度と配偶者の生活を維持する必要性の衡量 | 法定 | |
特別受益 | 適用しないと推定 | - ※遺贈できない | |
権利の内容 | 性質 | 物権的 | 債権 |
譲渡 | 不可 | ||
客体 | 全部 | 無償使用部分 | |
内容 | 無償で使用及び収益 | 無償で使用 | |
存続期間 | 原則終身 別段の定めも可 | 6か月以上 | |
登記義務 | あり | なし | |
対抗要件 | あり ※妨害停止請求、返還請求可 | なし | |
修繕 | 配偶者は必要な修繕可 所有者は相当期間にされないときに可 | ||
通常の必要費 | 配偶者が負担 | ||
必要費以外の費用 | 所有者が負担 ※所有者の費用償還義務 | ||
返還 | 配偶者が共有持分を有する場合は返還請求不可 | ||
原状回復義務 | 配偶者 | ||
消滅・終了の原因 | 無断増改築 無断第三者使用収益 | 催告し、是正なければ意思表示により消滅 | 無催告で意思表示により消滅 |
使用収益不能 | 権利終了 |
配偶者居住権
被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(居住建物)の全部について無償で使用及び収益をする権利(配偶者居住権)を取得します。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りではありません。(民法第1028条第1項)
- 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
- 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
配偶者は、被相続人の死亡時に被相続人の建物に居住していたときは、無償で使用収益することができる配偶者居住権(使用貸借権)の取得要件を備え、遺贈又は遺産分割によって取得します。ただし、死亡時に夫婦以外の第三者が共有者である共有建物であったときは、配偶者居住権はありません。
配偶者は、相続分から遺贈・遺産分割により配偶者居住権を固有財産として取得します。したがって配偶者居住権の価額を評価する必要があり、「配偶者居住権等の鑑定評価に関する研究報告」(令和元年12月、日本不動産鑑定士協会連合会)が参考になります。簡易な評価方法は法務省が公表しています。すなわち、簡易な評価方法は、「現在価値-負担付所有建の価値」です。
(筆者メモ)非公開になった時のために、「C:\Users\User\Documents\法律書籍」に保管しました。
配偶者が居住建物の持分を有する場合でも、配偶者居住権は消滅しません。(民法第1028条第2項)
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人は、配偶者居住権の遺贈について特別受益を適用しない旨の意思を表示したものと推定します。(民法第1028条第3項が民法第903条第4項を準用)
通常、配偶者は相続により居住建物の持分を有する(物権共有する)こととなりますが、無償で使用収益できるように保護されました。遺贈の目的としても、特別受益にはなりません。
家庭裁判所における遺産分割審判においては、配偶者居住権の取得に合意が成立しているとき又は配偶者が配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出て、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるときに限り、配偶者居住権を取得する旨を定めることができます。(民法第1029条)
配偶者居住権の存続期間及び終了
終身原則及び別段の定め(期間満了)
配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とします。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによります。(民法第1030条)(民法第1036条が民法第597条を準用)
善管注意義務違反・違法増改築・違法転貸借
善管注意義務違反又は所有者の承諾なく増改築若しくは第三者に居住建物の使用若しくは収益をした場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます。(民法第1032条第4項)
使用収益不能
居住建物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、配偶者居住権は、これによって終了します。(民法第1036条が民法第616条の2を準用)
配偶者居住権の登記
居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。(民法第1031条第1項)
配偶者居住権を登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができます(民法第1031条第2項が民法第605条を準用)。配偶者居住権を取得した配偶者は、登記を備えた場合、第三者による占有妨害に対しては妨害停止請求、不法占有に対しては返還請求ができます。(民法第1031条第2項が民法第605条の4を準用)
配偶者居住権の譲渡性の否定
配偶者居住権は、譲渡することができません。(民法第1032条第2項)
配偶者による使用収益(善管注意義務)
配偶者居住権を取得した配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければなりません。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げません。(民法第1032条第1項)
居住建物の修繕
配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます。(民法第1033条第1項)
居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者居住権を取得した配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます。(民法第1033条第2項)
通常の賃貸借と、修繕権が反転しています。(民法第607条の2)
居住建物が配偶者自己修繕を除いて修繕を要するとき又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りではありません。(民法第1033条第3項)
増改築・転貸借の制限
配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができません。(民法第1032条第3項)
居住建物の費用負担
配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担します。(民法第1034条第1項)
通常の賃貸借と異なり、必要費は使用者負担です。(民法第608条第1項)
配偶者居住権を取得した配偶者が必要費以外の費用を支出したときは、所有者は、その必要費以外の費用の償還をしなければなりません。ただし、有益費については、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます。(民法第1034条第2項が民法第583条第2項を準用)
配偶者居住権の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び配偶者が支出した費用の償還は、所有者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません。損害賠償請求権については、所有者が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しません。(民法第1036条が民法第600条を準用)
居住建物の返還
配偶者居住権を取得した配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければなりません。ただし、配偶者居住権を取得した配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができません。(民法第1035条第1項)
一般的には配偶者は相続人であり共有持分を有しているため、無償利用から有償利用に切り替わるものと考えるべきでしょう。
配偶者の収去義務
配偶者居住権を取得した配偶者は、相続開始後に居住建物に附属させた物がある場合において、配偶者居住権が終了したときは、その附属させた物を収去する権利及び義務を負います。ただし、居住建物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限り(義務)ではありません。(民法第1035条第2項が民法第599条第1項及び第2項を準用)
配偶者の原状回復義務
配偶者居住権を取得した配偶者は、相続開始後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負います。ただし、その損傷が配偶者居住権を取得した配偶者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではありません。(民法第1035条第2項が民法第621条を準用)
配偶者居住権の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び配偶者が支出した費用の償還は、所有者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません。損害賠償請求権については、所有者が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しません。(民法第1036条が民法第600条を準用)
転貸の効果
配偶者居住権を取得した配偶者が適法に居住建物を転貸したときは、転借人は、配偶者居住権に基づく配偶者居住権を取得した配偶者の債務の範囲を限度として、所有者に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います。この場合においては、賃料の前払をもって所有者に対抗することができません。
所有者が配偶者に対してその権利を行使することを妨げません。
配偶者居住権を取得した配偶者が適法に居住建物を転貸した場合には、所有者は、配偶者居住権を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができません。ただし、その解除の当時、所有者が配偶者居住権を取得した配偶者の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りではありません。
配偶者短期居住権
配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、下表のとおり、居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者(居住建物取得者)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利「配偶者短期居住権」)を有します。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は欠格事由に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りではありません。(民法第1037条第1項)
配偶者は、遺贈又は遺産分割によらなくても、死亡時に夫婦以外の第三者が共有者である共有建物であっても、欠格者でなく廃除されておらず相続権があり、被相続人の死亡時に無償で被相続人の建物に居住していたときは、居住建物取得者に対し、居住建物について無償で使用する配偶者短期居住権(債権)を有します。6か月は無償で居住が認められます。
区分 | 存続日 |
---|---|
居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 | 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日 |
前号に掲げる場合以外の場合 ※第三者に特定遺贈された場合 | 居住建物取得者からの配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6箇月を経過する日 |
居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはなりません。(民法第1037条第2項)
居住建物取得者は、第1項第1号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができます。(民法第1037条第3項)
配偶者短期居住権の消滅
配偶者居住建物の取得
配偶者短期居住権を有する配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅します。(民法第1039条)
配偶者の死亡
配偶者の死亡によって終了します。(民法第1041条が民法第597条第3項を準用)
使用収益不能
居住建物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、配偶者居住権は、これによって終了します。(民法第1041条が民法第616条の2を準用)
配偶者短期居住権の譲渡性の否定
配偶者短期居住権は、譲渡することができません。(民法第1041条が民法第1032条第2項を準用)
配偶者による使用
配偶者短期居住権を有する配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければなりません。(民法第1038条第1項)
配偶者短期居住権を有する配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができません。(民法第1038条第2項)
配偶者短期居住権を有する配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができます。(民法第1038条第3項)
配偶者短期居住権の本旨に反する使用によって生じた損害の賠償及び配偶者が支出した費用の償還は、所有者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません。損害賠償請求権については、所有者が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しません。(民法第1041条が民法第600条を準用)
居住建物の修繕
配偶者短期居住権を取得した配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます。(民法第1041条が民法第1033条第1項を準用)
居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者短期居住権を取得した配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます。(民法第1041条が民法第1033条第2項を準用)
通常の賃貸借と、修繕権が反転しています。(民法第607条の2)
居住建物が配偶者自己修繕を除いて修繕を要するとき又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者短期居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りではありません。(民法第1041条が民法第1033条第3項を準用)
居住建物の費用負担
配偶者短期居住権を取得した配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担します。(民法第1041条が民法第1034条第1項を準用)
通常の賃貸借と異なり、必要費は使用者負担です。(民法第608条第1項)
配偶短期者居住権を取得した配偶者が必要費以外の費用を支出したときは、所有者は、その必要費以外の費用の償還をしなければなりません。ただし、有益費については、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます。(民法第1041条が民法第1034条第2項を準用しこれが民法第583条第2項を準用)
配偶者短期居住権の本旨に反する使用によって生じた損害の賠償及び配偶者が支出した費用の償還は、所有者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません。損害賠償請求権については、所有者が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しません。(民法第1041条が民法第600条を準用)
居住建物の返還
配偶者短期居住権を有する配偶者は、配偶者居住権を取得した場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければなりません。ただし、共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができません。(民法第1040条第1項)
配偶者の収去義務
配偶者短期居住権を取得した配偶者は、相続開始後に居住建物に附属させた物がある場合において、配偶者短期居住権が終了したときは、その附属させた物を収去する権利及び義務を負います。ただし、居住建物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限り(義務)ではありません。(民法第1040条第2項が民法第599条第1項及び第2項を準用)
配偶者の原状回復義務
配偶者短期居住権を取得した配偶者は、相続開始後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負います。ただし、その損傷が配偶者短期居住権を取得した配偶者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではありません。(民法第1040条第2項が民法第621条を準用)
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