共有の性質については別記事を参照してください。
共有物の分割の意義・性質
共有物の分割は、共有物について共有者間で持分の交換又は売買(持分の移転)が行われるものです。(民法第261条)(最判昭和42年8月25日民集21巻7号1729頁)
しかしこのように定義すると、共有持分を第三者に譲渡することは共有物の分割とはいえないことになります。共有者全員の協力による処分は、分割とはいえないかどうかの検討が必要でしょう。
共有物分割・共有状態解消の必要性
共有物を分割することにより、使用について善管注意義務を免れ損害賠償責任を負うリスクがなくなり、使用しても持分を超える使用の対価を他の共有者に償還する必要もなくなります。(民法第249条)
さらに、使用方法の変更や売買、贈与、抵当権の設定、5年超えの土地の賃借権の設定、3年超えの建物の賃借権の設定といった処分、共有物の用途変更や大規模な改修・建替えといった変更に他の共有者の同意は必要なく(民法第251条第1項)、管理事項も持分価格の過半数で決する必要がなくなります(民法第252条第1項)。
持分がなくなった場合は固定資産税を負担する必要がなくなり、単独所有となった場合には固定資産税を請求する必要もなくなります(民法第253条)。
また、共有者はいつでも分割を請求することができる(民法第256条)ことから、いつ共有物分割請求訴訟を提起されてもおかしくないところ、このような不安定な状態もなくなります。
また、共有状態を解消することにより、将来、子や孫にまでトラブルの種を遺すことがなくなることも共有状態を解消すべき理由といえるでしょう。
共有物分割請求
共有物の分割の請求は、原則としていつでもできます。当事者が不分割特約を約定・更新することは5年以内の期間に制限されており、破産手続開始の決定を受けた共有者がいるときは無効となるなど、共有状態は解消されるべきとの考え方を捉えられます。
共有物分割請求の原因(要件)
各共有者は、5年以内(更新期間も同じ)に設定できる分割をしない旨の契約(不分割特約)に反しないかぎり、いつでも共有物の分割を請求することができます。(民法第256条第1項)
相続財産は、共同相続人間で共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、その共有物又はその持分について裁判による共有物の分割をすることはできません(相続人の協議による遺産分割は当然可)。(民法第258条の2第1項)
相続開始の時から10年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分について、相続人が裁判所から通知を受けた日から2か月以内に持分の分割について異義の申出をしたときを除き、裁判による分割をすることができます。(民法第258条の2第2項)
遺産分割手続は、特別受益や寄与分等を加味して算出した具体的相続分に基づいて行うからです。
共有物分割との違いは、1個の財産だけでなく遺産という包括の財産が対象であること、各相続人の年齢や職業、心身の状態、生活の状況その他一切の事情を考慮すること(民法第906条)、被相続人が遺言で分割を禁じることができること(民法第907条第1項)、手続が非公開(家庭裁判所の審判手続)で行われる(民法第907条第2項)こと、被相続人が分割の方法を指定することができること(民法第908条第1項)、遺産分割の効果は相続開始時に遡及すること(民法第909条)です。
第三者に持分が譲受されると、その部分は遺産分割の対象から逸出するため、第三者が共有状態を解消するための裁判手続は、遺産分割審判ではなく、第三者譲受分と他の共同相続人の持分とに分割することを目的とする共有物分割訴訟となります。(最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁)
したがって、第三者譲渡があったときは共有物分割訴訟をして、次に遺産分割審判を経なければなりません。
不分割特約
不分割特約は、遺産について、被相続人は遺言で、共同相続人はその協議で定めることができます。遺言は更新できませんが、共同相続人の不分割特約は更新できます。(民法第908条)
不分割特約は、登記(不動産登記法第59条第6号、権利に関する登記事項)がなければ第三者に不分割特約を対抗することができません。(民法第257条)
不分割特約の例外
不分割特約があっても、破産手続開始の決定を受けた共有者がいるときは、もはや不分割特約は無効となり、共有物分割請求をすることができます(破産手続開始の効果)。(破産法第52条)
共有物分割請求の性質
共有物分割請求権の行使は、各共有者間に何らかの方法で具体的に分割を実現すべき法律関係を生じさせる効果がある、すなわち形成権的な性質があると解されています。
しかし、分割は協議成立時又は判決時を基準に行われると解すべきであって、通常の形成権のように意思表示だけで実体上の法律関係が形成されることはないため、裁判所において法律関係の形成を内容とする意味において形成権であるにとどまるとの意見もあります。
民法第256条ニ於テ各共有者ニ共有物分割ノ請求権アルコトヲ規定セルカ故ニ或共有者カ其請求ヲ為ストキハ他ノ共有者ノ意思如何ニ拘ハラス共有物ハ分割セラルヽコトヽ為レリト雖モ他ノ共有者カ其分割ス可カラサルコトヲ争フトキハ分割ノ請求者カ其意思ヲ表示シタルノミニテハ当然分割ノ行ハルヽ可キモノニ非サルヲ以テ訴訟ヲ提起シテ其争ニ付判断ヲ受ケ請求ノ目的ヲ達スルハ当然ニシテ此ノ如キ場合ニ於テ訴訟ノ提起ヲ許ス可キコトハ当院ノ判例ト為ス所ナリ依テ原院カ本件ニ於テ裁判所ニ共有物分割ノ請求ヲ為ス ヲ得スト判示シタルハ失当
引用元:大審院明治40年4月12日判決民録13輯433頁
(筆者:(初略)各共有者が共有物分割請求をしたときは他の共有者の意思にかかわらず共有物が分割されるというが、他の共有者がその分割を争うときは、分割請求者が意思表示をしたのみで当然分割されるわけではない。訴訟を提起してその争いについて判断を受け、請求の目的を達することは当然である。このような場合において訴訟の提起を許すことは当院の判例であり(後略))
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)468頁
協議による共有物分割
協議分割は、合意により、持分割合に応じた内容かどうかにかかわわず、自由に分割をすることができます(大審院昭和10年9月14日決定民集14巻1617頁)。
共有物の所有者(持分権者)は、共有物を自由に処分できる権利を有すること、物権の移転は当事者の意思表示のみによって効力が生じることからして当然でしょう。
裁判による共有物分割
1年以内に負担義務を履行しない共有者がいるとき(民法第253条)は、その共有者の意思にかかわらず、その共有者の持分価格(相当の償金)を支払って持分を取得することができます。
共有不動産・共有持分を売却するときは、当事者が不動産会社による査定を利用しながら当事者間で価格を合意(評価合意)できればその価格です。
合意できなければ、不動産鑑定士による私的鑑定、それでも合意できなければ裁判所を通じた鑑定(公的鑑定)によって適正な価格を求めます。
競売による売却は、一般に30%程度減価するといわれています。
共有持分のみ売却するときは、通常の所有権と比べて管理・処分等に制約が生じるため、通常価格から20%程度の減額補正(共有補正)がされるのが一般的です。
全面的価格賠償の場合は、単独所有となる者の持分について制約がなくなるため、共有補正を行わないだけでなく、正常価格より高い限定価格によって評価されることがあります。
したがって共有持分を売却するときは、借地と底地の同時売却と同様に、全面的価格賠償によるのが理想的です。
(参考)
協議が不調調わないとき又は不能することができないときであるとき、裁判所に共有物の分割を請求することができます。
協議が調わないとは、協議の通知をして1週間の短期間内に返答がない場合でも、することができると解されてます。(大審院昭和13年4月30日判決ほか)
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)476頁
訴えの性質
訴えの性質としては「共有物分割の実施方法について共有者間の権利関係を定める創設的判決を求めるもの」、つまり形成の訴えです。判決が確定すると、当然に分割の効果が発生します。
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)477頁
訴えの当事者
共有物の分割は、共有者全員が分割手続に参加することが必要なのは共有の性質上当然であり、協議・裁判による分割を問わず、特定の者を除外して分割を進めることは許されないと解されています。(大審院明治41年9月25日判決民録14輯931頁)
なお、係属中に共有持分を第三者に譲渡した共有者がいても、譲受人に別訴して併合することにより全員が当事者となるので、訴えは適法となると解されています。
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)477頁
裁判による分割の方法
裁判所は現物分割共有物を物理的に分けてそれぞれ単独所有とする方法、全面的価格賠償(代償分割)取得者が、他の共有者に代償金を支払って持分を買い取り、単独所有とする方法を命ずることができ、いずれの方法によることもできないとき、分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがあるときは競売(換価分割)共有物を売却し、売却代金を持分に応じて分配して共有を解消する方法を命ずることができます。金銭の支払いや共有物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命じることができます。(民法第258条)
現物分割 | 全面的価格賠償 (代償分割) | 換価分割 代金分割 | |
---|---|---|---|
概要 | 1個の共有物を複数に分けて各共有者の単独所有とする方法 土地:分筆 建物:区分所有 | 取得者が、他の共有者に代償金を支払って持分を買い取り、単独所有とする方法 | 共有物を売却し、売却代金を持分に応じて分配して共有を解消する方法 |
特徴 | 最も公平性が高いといわれるため、優先的に検討されるが、デメリットも多い | 単独所有したい共有者と現金化したい共有者の利害が一致する場合に有効だが、代償金に争いが生じやすいため、共有者間に不公平が生じないように持分の価値を適正に評価する必要がある ※不動産会社の査定額に差がある場合もある ※調停・訴訟において不動産鑑定士の鑑定結果を得ることになる | 売得金を持分に応じて分割するため公平性が高い 特定の共有者の資力も求められない |
共有物の使用収益(活用) | 可 | 可 | 不可 |
支払能力(資力) | 不要 | 必要 | 不要 ※予納金あり |
デメリット | 建物は区分所有を認められないことが多い 土地の分筆も現実的でない場合が少なくない 分筆によって建ぺい率や容積率に影響するなど、価値が下がるおそれがある | 単独所有となる者が、代償金の支払能力(資力)があることが必要 ※他の共有者が、代償金の分割支払いを認めてくれるかどうか ※担保として抵当権を設定する場合がある | 競売によると、市場相場よりも低い金額で落札されることが多い 使用者がいる場合には同意が取りにくい |
共有状態の解消方法・共有持分の処分方法
現物分割
現物分割とは、1個の共有物を複数に分割して、分割後の共有物を各共有者の単独所有とする方法です。
土地は分筆、建物は区分所有により単独所有とします。
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)474頁
共有物分割請求訴訟においても、建物について区分所有による現物分割をすることができるかが判断されています。
本件不動産のうち原判決添付物件目録記載一ないし三の土地上には、ほぼ一杯に同目録記載四の建物(以下「本件建物」という。)が存在しており、しかも、本件建物は、構造上一体を成していることから、上告人らとGの持分に応じた区分所有とすることができず、したがって、本件不動産を現物分割することは不可能である。
引用元:最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁
建物を区分所有とするためには、共有者全員が区分所有建物とすること及び専有部分を誰に帰属させるかについて同意し、かつ、物理的に個々の部屋の独立性(専有部分)を満たすなど区分所有の成立要件を満たした場合に限りできるとされています。(参考)
区分所有とは、1棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分(専有部分)は、区分所有法に定めるところにより、所有権(区分所有権)の目的とすることができるとされています。つまり1棟の建物でも、構造上区分された独立用途(住居)部分があるときは、専用部分について区分所有権を観念することができます。(区分所有法第1条)
遺産分割の場合には、土地はA、車はB、預貯金はCというように分けることも現物分割と呼ばれています。遺産分割でなくても、数個の建物が一筆の土地の上に建てられており外形上一団の建物とみられるときは、そのような数個の共有物を一括して、各共有者がそれぞれの物の単独所有権を取得する方法により分割することも現物分割の方法として許されるものと解するを相当とするとされています。(最判昭和45年11月6日民集24巻12号1803頁)
現物分割は、物を共有者に残せること、、基本的には各共有者に大きな経済的負担がかからないことがメリットです。一方で、現物分割により価値が低下すること、分割後の共有物の位置や環境その他の要因によって公平に分割するのは難しいことなどがデメリットといえます。
共有物の譲渡(換価分割)
換価分割とは、共有物を第三者に有償譲渡し、その代金を分割する方法です。
共有物を譲渡すると、共有者の各持分もすべて譲渡することになるため、共有状態を解消できます。この場合、各共有者は、譲渡代金に持分割合を乗じた額を取得します。
共有持分の譲渡よりも取り分が多くなるメリットがあり、共有者は印紙税や仲介手数料、譲渡所得税の他には経済的負担はなく、また、第三者と交渉した価格に基づくという点で公平性のある分割方法です。
しかし、共有物を使用している共有者から同意を得ることは難しい点には注意しなければなりません。
共有者間の持分移転(代償分割)
代償分割とは、単独所有を希望する共有者が、他の共有者の持分を代償金を支払って買い取ることにより、共有状態を解消する方法です。共有関係の消滅原因である持分の集中と称されることがあります。
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)467頁
取得者にとっては単独所有を実現できることがメリットであり、非取得者も現金を取得できるメリットがあります。
一方で、代償金計算の前提となる持分価格の評価について共有者間で争いが生じやすく、そもそも取得者の支払能力がなければ採ることができない方法であるのがデメリットです。
持分権移転の登記義務も発生します。(大審院大正8年10月20日判決民録25輯1828頁)
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)475頁
共有持分の譲渡その他の処分
共有持分は、1つの財産権として、共有者間で譲渡禁止特約がない限り、自由に売却、贈与、抵当権の設定などの処分を単独ですることができます。
共有者の1人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人(包括承継人ではない)に対しても行使することができる(民法第254条)とあり、持分の譲渡が可能であることを前提としています。
しかし、共有持分は売却価値・担保価値の評価は低くなってしまいます。共有持分を担保に供するとき、事実上、他の共有者の共有持分も担保に取るために物上保証人になってもらうことが多いようです。
当事者間での譲渡禁止特約は債権的な効力を有するにとどまり、第三者に対抗できず、登記することもできません。
平野裕之 著『物権法[第2版]』(日本評論社、2022年)358頁
物権関係の承継
共有物の使用・管理・費用分担などに関する合意は、物権関係の内容についての合意であり、譲受人に承継されると考えられています。(大判大正8年12月11日民録25輯2274頁)
共有の持分を譲受けたる者は譲渡人の地位を承継して共有者となり共有物分割又は共有物管理に関する特約等総で共有と相分離すべからざる共有者間の権利関係を当然承継すべきものなり(中略)。共有者間に締結したる各自の持分に応して之が負担の責に任ずべき契約の如きは之に関する特別の意思表示なき限り譲受人に於て当然該契約より生ずる義務を承継すべきものにあらず。 蓋し叙上の如に債務及び費用等は単に或物件に対する共有関係の成立に必要なりしに止り共有物其物に付き生じ及び要したるものにあらざるを以て共有権と相分離すべからざる関係を有するものにあらざればなり。
引用元:大判大正8年12月11日民録25輯2274頁
共有者は自己が持っていた以上の権利を譲渡することはできず、譲受人も譲渡人が受けていたと同じ制限を受ける権利を取得すること、そのように解しないと共有者間の特約により負担を負う共有者の1人が、持分を譲渡することにより一方的にいつでもその特約を破棄したと同等の効果を生じさせうることになることから説明されています。
もっとも、特約には公示方法がないため譲受人が不測の損害を受け取引の安全を害することがないとはいえません。しかし、これは譲渡人の瑕疵担保責任(契約不適合責任)又は譲受人による共有解消の問題として考慮すれば足りるとの判断があります。
債権関係の承継
共有者の1人が共有物について他の共有者に対して有する債権(費用償還請求権など)は、その特定承継人(包括承継人ではない)に対しても行使することができます(民法第254条)。元の共有者に対しても行使可能であり、特定承継人が弁済した場合には求償権が発生します。
持分の放棄・相続人の不存在
固定資産税と地代家賃収入が同程度であるようなケースでは、共有関係からの離脱は有用な選択肢となります。
共有者は、自己の持分を単独で放棄することができます。
共有者に未成年者がいる場合、親権者が法定代理人として放棄の意思表示をする場合は、利益相反となるため、特別代理人を選任しなければなりません。
死亡して相続人がおらず、かつ特別縁故者もいないとき(最判平成1年11月24日民集43巻10号1220頁、反対意見あり)は、国庫(無主物)ではなく、放棄された持分は他の共有者に帰属します。(民法第255条)
マンションでは、専有部分と敷地利用権を分離して処分することは禁止(区分所有法22条)され、敷地利用権に民法255条は適用されないと規定(区分所有法24条)されています。したがって、敷地利用権の共有部分のみの放棄はできず、専有部分の放棄もできません。
共有持分の放棄は相手方を必要としない意思表示から成る単独行為ですが、他の共有者に対する意思表示によってなすこともできます。(最判昭和42年6月22日民集21巻6号1479頁)
第三者対抗要件
持分権を放棄した結果、他の共有者が持分権を取得するに至った場合、その権利の変動を第三者に対抗するためには、持分権放棄を登記原因として、放棄にかかる持分権の移転登記が必要です。(最判昭和44年3月27日民集23巻3号619頁)
共有持分権の放棄者が任意に移転登記手続をすることに応じない場合には、取得した共有者は、その持分権移転登記手続に応ずべきことを訴求することができます。(名古屋高判平成9年1月30日)
実務上、登記手続を行う必要性があることから、他の共有者に対して内容証明郵便などによって通知を行います。(共有持分放棄の通知書)
抵当権との関係
持分に抵当権が設定されている場合でも持分放棄は可能ですが、抵当権者には対抗できません。(民法第398条の類推適用)
したがって抵当権者は、持分が存続しているものとして抵当権の実行により持分を競売できます。
相続土地国庫帰属制度
2023年4月27日に、相続土地国庫帰属制度が施行しました。
相続土地国庫帰属制度とは、相続・遺贈により、建物がなく、担保権又は使用収益権の設定がなく、他人の使用が予定されておらず、特定有害物質により汚染されておらず、境界が明らかな土地を取得した人が、土地の位置及び範囲を明らかにする図面、隣接する土地との境界点を明らかにする写真、土地の形状を明らかにする写真を添付し、審査手数料として14,000円分の収入印紙を貼り付けた申請書を土地を管轄する(地方)法務局の本局に提出して申請し、書面審査及び実地調査を経て、管理処分を阻害する有体物があるなどの非承認事由がない限り承認の通知があり、その通知が到達した日の翌日から30日以内に、10年分の土地管理費用相当額(原則20万円)の負担金を納付することによって、土地の所有権を国庫に帰属させる制度です。
審査期間は半年~1年程度、所有権移転登記は国が行います。
共有物の分割の効果
共有物が分割(共有持分の移転が)されると、共有関係・共有者の持分が消滅します。
分割方法によって、持分の移転による単独所有権、価格賠償請求権、代金請求権などが発生します。
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)469頁
不分割特約を含む地位の譲渡
持分を譲渡した場合でも、譲受人は、不分割特約に拘束されます(不分割特約を含む地位の譲渡)(民法第254条)。
担保責任(契約不適合責任)
各共有者が、その取得部分について単独所有権を原始的に取得するものではないため、共有者間の担保責任の問題も生じます。(最判昭和42年8月25日民集21巻7号1729頁)
分割は持分の売買、贈与、交換だからです。(贈与は担保責任なし)
共有持分上の担保物権の設定及び効力
共有持分の上に、抵当権を設定することはできます。では、分割後の抵当権はどうなるのでしょうか。
まず、分割により現物分割や代償分割によって抵当権設定者の単独所有となったときは、共有物分割は通常抵当権者が知らない間に自由にすることができるだけでなく、抵当権設定者が故意に持分の割合以下の現物を取得して抵当権者を害するような行為をなすおそれがないわけでもないから、抵当権設定者が分割により取得した部分にのみ集中するものではなく、依然として持分の割合において共有物全部の上に存在すると解されています。
分割前共有者の一人が其の持分に付、設定したる抵当権は依然として持分の割合に於て共有物全部の上に存在すべく縦令抵当権者が共有物の分割に参加したりとするも之が為直に該抵当権は抵当権設定者が分割に因り取得したる部分にのみ集中すべきものに非ず
凡そ共有物の分割は抵当権者が其の分割に参加することを請求せざる限り其の不知の間に自由に為し得べきのみならず分割が正当に行はれず例へば其の持分に付、抵当権を設定したる者が故意に持分の割合以下の現物を取得し以て抵当権者を害するが如き行為を為す虞なきに非ざればなり
引用元:大判昭和17年4月24日民集21巻8号447頁
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)470頁
換価分割や価格賠償により抵当権設定者の持分を売却等したときは、物上代位(民法第372条が抵当権について民法第304条を準用)により、抵当権者は、抵当権設定者が受けるべき金銭その他の物、物権の対価に対しても抵当権を行使することができ、他人の所有となった目的物の上になお抵当権を主張しうると考えられています。なお、抵当権者は譲受人に抵当権の代価弁済を請求できます(民法第378条)。
共有持分の買主は、共有物に抵当権が設定されていないかよく確認しておかなければなりません。また、代償分割(価格賠償)では、代償価格を安くすべきでしょう。
筆者は、抵当権とは、所有権や共有持分権を目的とするのではなく不動産を目的とするもの(民法第369条第1項)であり、そもそも持分という権利に設定できるわけではないと考えていました。しかし、他人の土地において工作物を所有するためにその土地を使用する権利である地上権(民法第265条)や他人の土地において耕作をする権利である永小作権(民法第270条)も抵当権の目的とすることができる(民法第369条第2項)ため、結局は財産的価値を有する共有持分権にも設定することができるというべきでしょう。なお、担保権の実行とは、担保不動産競売又は担保不動産収益執行をいいます(民事執行法第180条)。つまり抵当権は、目的物(財産権)の売却価値や収益力を把握します。
秋山靖浩 伊藤栄寿 大場浩之 水津太郎 著『物権法[第3版]』(日本評論社、2022年)175頁
平野裕之 著『物権法[第2版]』(日本評論社、2022年)386頁
川島 武宜 (元東京大学名誉教授)・川井 健 (一橋大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(7)物権(2) 占有権・所有権・用益物権 — 180条~294条』(有斐閣、2007年)470頁
登記移転義務・登記請求権
共有不動産の分割の場合は、登記移転義務も生じます。(大審院大正4年10月22日判決民録21輯1674頁)
分割によらない共有関係の終了
共有関係の消滅原因は、共有物の分割請求のほかに、以下があります。
滅失
共有物が火事などによって滅失した場合には、当然、所有権の客体がないため共有状態及び持分も滅失します。
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