- 暗号資産の移転による所得
- 原則として雑所得(その他雑所得)(国税庁)
- 暗号資産取引の帳簿書類の保存があり、収入金額が300万円を超える場合は原則として事業所得
- 総収入-必要経費(譲渡原価(取得単価×譲渡数量)+その他の必要経費)(所得税法第37条第1項)(国税庁)
※5BTC持っていて2BTC売ったとしても、いくらで買ったBTCを売ったのかわからないので、譲渡原価を計算する必要がある。 - 譲渡原価=(期首評価額+年中取得総額)-期末評価額
※期末評価額の評価方法は、政令で定める方法(総平均法/移動平均法)のうち選定した評価方法とする(所得税法第48条の2第1項、所得税法施行令第119条の2第1項) - 総平均法による取得単価=(期首評価額+年中取得総額)÷総数量(所得税法施行令第119条の2第1項第1号)
- 暗号資産の取得による所得
- マイニング・ステーキング・レンディングなど
- 取得時点の時価を総収入金額とし、必要経費を控除して計算する
- 暗号資産証拠金取引は雑所得だが、申告分離課税の対象外とされている
- 国内源泉所得には含まれない
- 参考資料
- 個人は雑所得になるので、20万円以下なら確定申告不要(住民税は別であり、必要)
- 副業雑所得(原稿料など)と通算できる
- 雑所得の金額の計算(所得税法第35条第2項)
- その年中の公的年金等の収入金額-公的年金等控除額
- 雑所得に係る総収入金額-必要経費
- 総収入金額は、その年において収入すべき金額(所得税法第36条)
- 金銭の金額
- その他経済的な利益の価額(取得時の価額)
- 物
- 権利
- 必要経費(所得税法第37条)
- その年における当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額
- その年における所得を生ずべき業務について生じた費用の額
2023年1月13日、国税庁は「NFTに関する税務上の取扱いについて」のFAQを取りまとめて公表しました。
なお、すでに国税庁はタックスアンサーで「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」を取りまとめています。
概要をまとめると次のとおりです。
NFTはデジタルコンテンツそのものではないため、NFTはデジタルコンテンツの閲覧権として、制作者は閲覧権の設定に係る取引であり雑所得、転売者は閲覧権の譲渡であり譲渡所得と認識されています。
取引区分 | 所得区分 | 所得(課税価格)の計算 |
---|---|---|
デジタルアートを制作し、紐づけたNFTを売った(一次流通) ※閲覧権の設定 | 雑所得 事業所得 | NFTの譲渡収入-NFTに係る必要経費 |
購入したNFTを転売した(二次流通) ※閲覧権の譲渡 | 総合課税の譲渡所得 | NFT転売収入-NFT取得費-NFT譲渡費用-最高50万円の特別控除額 |
NFTを贈与した(あげた) | 課税対象外 | 課税対象外 |
NFTゲームで通貨を支払ってNFTやトークンをもらった | 雑所得 | 収入-必要経費 |
エアドロップなど無料でNFTをもらった | 一時所得 | 収入-収入を得るために直接要した支出金額-最高50万円の特別控除額 |
NFTを贈与や相続でもらった | 相続税の課税対象 贈与税の課税対象 | 売買実例価額 |
一般的にはこうなるという紹介であるため、詳細は上記資料と後述する解説でご確認ください。
暗号資産の課税関係
国税庁の運用
国税庁は、マイニング・ステーキング・レンディングにより暗号資産を取得した場合、その取得によって生ずる利益は、取得時点の時価が収入金額(通常は雑所得)、相続・贈与により財産を取得した場合は、相続税又は贈与税の課税対象、暗号資産取引(暗号資産の取得・移転?)により生じた利益(損益)は、法定通貨との相対的な関係により認識される損益であり、(これによって譲渡所得を否定し、)原則として雑所得に区分されるとしています。
暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和5年12月25日更新、国税庁)
筆者の考え方
所得とは、金銭その他の経済的な利益(物又は権利)を指すもの(所得税法第36条第1項)と解されているところ、資金決済法において財産的価値が認められていることから、暗号資産は所得に当たり、課税対象になるものと考えています。
マイニングにより暗号資産を取得した場合は雑所得又は事業所得
筆者は、マイニングにより暗号資産を取得した場合は、営利を目的とする継続的行為から生じる経済的利益(財産的価値)と捉えるのが相当であり、雑所得又は事業所得とするのが妥当と考えます。
ステーキングについてはその仕組みについて理解が乏しいため触れませんが、現段階では、マイニングにより暗号資産を取得した場合の課税関係について、行政側と見解は一致しています。
いわゆる「マイニング」、「ステーキング」、「レンディング」など(以下「マイニング等」といいます。)により暗号資産を取得した場合、その取得した暗号資産の取得時点の価額(時価)については所得の金額の計算上総収入金額(法人税においては益金の額)に算入され、マイニング等に要した費用については所得の金額の計算上必要経費(法人税においては損金の額)に算入されることになります。
引用元:暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和5年12月25日更新、国税庁)
暗号資産の取引(移転)により生じた利益は譲渡所得
ここでいう暗号資産の取引とは、暗号資産の売却(日本円への換金)、暗号資産での商品の購入、暗号資産同士の交換とします。
まず、暗号資産の移転それ自体は、保有している経済的利益(財産的価値)を減少させるものであるため、経済的利益が生じたと捉えることはできません。
実体は、暗号資産を移転することによって日本円(金銭)、物品・商品(動産)、新たな暗号資産又は電子決済手段という経済的利益を獲得する取引です。民法からみれば、売買契約によって生じた債務の履行として、暗号資産の移転により弁済をするというものでしょう。なお、資金決済法は、定義において暗号資産の移転により弁済ができるという性質を認めていますし、弁済ができないものは暗号資産ではありません。
つまり、前提とした取引において、暗号資産は専ら支払手段(弁済の手段)として機能しているとみるべきでしょう。この考え方に立てば、適正時価で取引をしている限りにおいて、「取得した経済的利益-移転させた暗号資産の経済的利益」に差はないため、暗号資産取引で新たに経済的利益が生じる余地はありません。
しかし、取引自体に着目するのではなく、保有する資産の価値が上昇したことを経済的利益として捉えて、この経済的利益(キャピタルゲイン)に課税しようとするのが譲渡所得です。
たとえば、3,000万円の経済的利益を有する不動産を適正時価であることを前提に3,000万円で購入します。この取引自体では、得る経済的利益と減る経済的利益は同額であり、経済的利益が残る余地はありません。しかし、数年後に不動産の経済的利益が3,500万円になり、この不動産を3,500万円で売却すると、この取引自体では同様に新たに経済的利益が生じる余地はありませんが、保有する資産の価値が上昇し、その値上がり益を現実化した(値上がり益分の金銭を受け取った)という経済的利益(所得)を観念することも可能です。
筆者は、暗号資産は不動産などと同様に譲渡所得=値上がり益を観念できるため、譲渡所得に区分するのが妥当と考えています。
しかしながら、行政側は国税庁「法定通貨との相対的な関係により認識される損益」、内閣においては「独立した経済的価値は認められない」(答弁書内閣参質208第39号令和4年4月28日)として、暗号資産は所得税法第33条第1項における譲渡所得の基因となる「資産」ではないと譲渡所得に当たることを否定しています。
暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和5年12月25日更新、国税庁)
ところが、暗号資産に独立した経済的価値を認めていないにもかかわらず、マイニングによって暗号資産を取得した時は経済的利益があるもの(所得)として課税対象としています。
いわゆる「マイニング」、「ステーキング」、「レンディング」など(以下「マイニング等」といいます。)により暗号資産を取得した場合、その取得した暗号資産の取得時点の価額(時価)については所得の金額の計算上総収入金額(法人税においては益金の額)に算入され、マイニング等に要した費用については所得の金額の計算上必要経費(法人税においては損金の額)に算入されることになります。
引用元:暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和5年12月25日更新、国税庁)
さらに、相続税・贈与税においては暗号資産自体(単独)を「金銭に見積もることができる経済的価値のある財産」と認めて課税対象としています。
相続税法では、個人が、金銭に見積もることができる経済的価値のある財産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税の課税対象となることとされています。
引用元:暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和5年12月25日更新、国税庁)
暗号資産については、決済法上、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」と規定されていることから、被相続人等から暗号資産を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されることになります。
国税庁は、暗号資産について、法定通貨との相対的な関係でしか認識できない価値ではなく、独立した経済的価値があると認めているわけです。以上より、行政側が暗号資産について譲渡所得の基因となる資産ではないとする主張は矛盾しており、前提を明らかに欠いているというべきでしょう。
「法定通貨との相対的な関係により認識される損益」というのは、BTC/JPYなど邦貨(日本円)とのレートが変動しただけであり、暗号資産自体の価値が増加したものではないという意味だと考えますが、これはちょっとよくわかりません。たとえば、「不動産/JPY」や「株式/JPY」、「金地金/JPY」のレートが変動したときは、不動産や株式、金地金自体の価値が増加して経済的利益が発生したと捉えて課税しているのが現実ではないのでしょうか。通貨自体の価値も確かに変動しますが、インフレやデフレを考慮して課税しようという試みでしょうか。とにかく、マイニングで取得したBTC/JPYは経済的価値=所得のある財産として捉えているはずなので、これも矛盾していると考えます。
結論、暗号資産は譲渡所得の基因となる資産ではないということは認められず、譲渡所得の基因となる資産というべきです。
NFT・FTの課税関係
NFTやFTについては、暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できるNFTやFTを用いた取引については、所得税の課税対象となるとし、役務提供の対価として取得した場合は事業所得・給与所得・雑所得、臨時・偶発的に取得した場合は一次所得、その他の場合は雑所得、譲渡した場合については、そのNFTやFTが譲渡所得の基因となる資産に該当する場合(その所得が譲渡したNFTやFTの値上がり益(キャピタルゲイン)と認められる場合)は譲渡所得となるが、営利を目的として継続的に行われている場合は雑所得又は事業所得となり、譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合は雑所得となるとしています。
NFTを売った場合(一次流通)
デジタルアートを紐づけたNFTを売って得た収入(譲渡収入)は所得税・住民税の課税対象となり、雑所得または事業所得に区分されるとされました。
所得とは、金銭その他の経済的な利益(物又は権利)を指すもの(所得税法第36条第1項)と解されているところ、筆者は、マイニングによる暗号資産の取得は営利を目的とする継続的行為から生じる経済的利益(財産的価値)であるため雑所得又は事業所得とし、暗号資産の移転それ自体は経済的利益(財産的価値)を減少させるものですが、これによって新たに暗号資産や電子決済手段など財産的価値を取得した場合は、新たな財産的価値を取得するための弁済(債務の減少)に使用したものと捉えるべきであり、この取引の性質はいわゆる譲渡であって資産の譲渡による所得ということができ、「取得した経済的利益-その資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用(トランザクションフィーがこれに当たると考える)」の合計額から特別控除額を控除した金額を譲渡所得の金額として認識するのが妥当と考えます。国税庁は「法定通貨との相対的な関係により認識される損益」である、内閣は「独立した経済的価値は認められない」として雑所得に区分しますが、資金決済法において財産的価値があるとされている暗号資産は独立した経済的価値を認めるのが妥当であることから反論の前提を欠いていると考えます。
NFTの雑所得または事業所得の計算方法は次のとおりです。
一般的にはイーサリアム(ETH)などのトークンで受け取るため、その時価(価格)が譲渡収入となります。仮に1ETHが20万円のときに1ETHを受け取ると、NFTの譲渡収入は20万円です。
NFTに係る必要経費とは、NFTの発行費用(ミント代)やガス代であり、デジタルアートの制作費は含まれないことに注意しましょう。
NFTを転売した場合(二次流通)
NFTの転売時(二次流通)も所得税の課税対象ですが、雑所得ではなく譲渡所得(総合課税)に区分されることとされました。
譲渡所得の計算式は次のとおりです。
転売収入は売って得たイーサリアム(ETH)などのトークンの時価、取得費はNFTの購入代価と手数料などの合計額です。売って得たトークンが暗号資産などに交換できない場合は、NFTの市場価額(なければNFTの取得費)となります。
NFTを10万円で買って(取得費)15万円で売った(収入)場合でも、特別控除額の適用によって譲渡所得は0円となります。
給与所得者が確定申告をするしないにかかわる20万円の判定については、最高50万円の特別控除を適用した後の半額で判断するため、副業でNFTの転売をしたからといって直ちに確定申告をする必要はありません。
譲渡年1月1日時点で所有期間が5年を超えるNFTを転売した場合(長期譲渡所得)、転売益が90万円を超えない限り確定申告をする必要はありません。
一時所得についての国税庁Q&Aですが、総合課税の譲渡所得も同様です。
また、一般的な給与所得者の方については、その給与以外の所得金額が年間20万円を超えない場合には、確定申告をする必要がないこととされており、一時所得については、50万円を控除した残額に2分の1を乗じた金額によって所得税額を計算することとされていますので、他の一時所得とされる所得との合計額が90万円を超えない限り、確定申告をする必要はありません。
引用元:国税庁「No.1490 一時所得 Q&A」
ポイントは総合課税の譲渡所得であるため、赤字の場合は趣味・娯楽などの目的のNFTでなければ、給与所得や事業所得、雑所得などと損益通算ができる点です。
NFTを贈与した場合
NFTを贈与した場合には、経済的価値を取得したことにはならないため所得税の課税対象にはなりません。
NFTゲーム(ブロックチェーンゲーム)でトークンをもらった場合
NFTゲームでトークンをもらった場合、雑所得に区分され、課税対象となります。
収入は原則としてトークンをもらった時点での時価で評価しますが、1か月ごと、または1年ごとの増減を管理して評価することも可能です。さらに、次のように計算することもできます。
必要経費については、例えばNFTゲームのアイテムを購入した金額やボックスを開くための金額が算入できます。
NFTを贈与や相続でもらった場合
NFTを贈与や相続でもらった場合も、贈与税や相続税の課税対象となります。
いくらが課税対象になるのかについては、売買実例価額とされます。いくらで売買されているかのことで、ほとんど時価を意味するものです。
デジタルアートを売った場合の消費税について
事業者がデジタルアートのNFTを売った場合、原則として消費税の課税対象となる取引です。
したがって、消費税の課税取引であればデジタルアートのNFTが10万円なら消費税10%を加えた11万円を取引相手に請求できます。
消費税の課税事業者である場合、消費税の納税義務が生じるため注意が必要です。
法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて
2023年1月1日時点の法令に基づけば、事業年度終了時に保有する市場暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産)は、時価評価金額を評価額とする必要があります。
自己の計算において有する場合、簿価と時価評価金額との差額は、その事業年度の益金または損金の額に算入しなければなりません。
国税庁「法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報 )」
時価評価金額の計算
市場暗号資産
市場暗号資産の要件は次のとおりです。
- 売買価格や交換比率決定に重要な影響を与える売買価格等が継続的に公表されている暗号資産
- 売買価格等の公表のために十分な数量と頻度で継続的に取引が行われている
- 売買価格等の公表がその法人以外の者からされていたり、取引が主としてその法人により自己の計算において行われたりした取引ではないこと(価格を操作できないこと=公正価格であること)
市場暗号資産かどうかは個々の実態に応じて判断します。
スプレッドが著しく大きい場合などは除外
売買価格等が取引所ごとに著しく異なっていると認められる場合やスプレッド(買うときの価格と売るときの価格の差)が著しく大きい場合は市場暗号資産から除外されます。
DEX(分散型取引所)上場の暗号資産も市場暗号資産から除外されない
DEX(分散型取引所)に上場する暗号資産も、市場暗号資産の要件を満たせば市場暗号資産から除外されるものではありません。
ステーキングによってロックアップした暗号資産も市場暗号資産から除外されない
ステーキング中に譲渡(売却)はできませんが、ステーキング中であることだけをもって市場暗号資産から除外されることはありません。
ロックアップ期間中にステーキング報酬を得られるとともに、将来的な価格変動リスクもその法人が得られるため、自己の計算において有していることになります。
レンディング中の暗号資産も市場暗号資産から除外されない
レンディング中に譲渡(売却)はできませんが、レンディング中であることだけをもって市場暗号資産から除外されることはありません。
レンディング中に対価を得られるとともに、将来的な価格変動リスクもその法人が得られるため、自己の計算において有していることになります。
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