訴訟要件とは(訴えの利益・当事者適格)

訴訟要件の意義・性質

訴訟要件とは、裁判所が本案判決の言渡しを行うための要件であり、当事者能力、裁判権のような例外を除き、口頭弁論終結時において具備されている必要があります

口頭弁論終結時において訴訟要件が具備されていない場合には、裁判所は、訴えを却下する終局判決(訴訟判決)をします。

訴訟要件の存否は職権調査事項であり、かつ、一定の訴訟要件については職権探知主義が妥当します。ただし、被告の利益保護を目的とする訴訟要件については、職権調査の対象とせず、弁論主義に服させる場合もあります。

  • 原告に訴訟費用の担保提供の必要がないか、担保を提供したこと
  • 訴えが有効であること
    • 申立ての手数料に相当する印紙の貼用がされていること
    • 呼出費用の予納があること(民事訴訟法第141条第1項
    • 請求の趣旨及び原因により、訴訟物(審判及び防御の対象となる権利関係)が特定されていること
  • 送達が有効であること(民事訴訟法第138条第1項
  • 当事者が実在し、当事者能力があること
  • 受訴裁判所に管轄権があること
  • 訴訟能力及び訴訟代理権があること
    ※裁判所が審査するほかないが、一応、訴状や答弁書で委任状が添付書類とされているか確認する
  • 訴えの利益があること
    • 事件が法律上の争訟にあたること(権利保護の資格)
      • 訴訟物が当事者間の具体的権利義務又は法律関係とみなされること(裁判所法第3条第1項
      • 訴訟物についての攻撃防御方法が法令の適用に適するものであること
    • 本案判決によって訴訟物についての争いが解決されうること(権利保護の利益)
      • 訴え提起の必要性があること(既に確定判決を得ていないこと)
    • 本案判決を求める機会が与えられていないこと(法律上禁止されていないこと)
    • 本案判決を求める機会が喪失されていないこと
      • 対象となる権利関係が特定された不起訴の合意がないこと
      • 対象となる権利関係が特定された仲裁合意がないこと
    • 訴訟物が自然債務ではないこと
    • 原則として現在の訴訟物の存否であること
      ※将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をする必要があること
  • 当事者適格があること
    ※訴訟物たる権利関係の主体及びその相手方であること

伊藤眞 (東京大学名誉教授)/著『民事訴訟法 第7版』(有斐閣、2020年)174頁

訴えの利益

紛争の対象が権利関係として認められない場合又は本案判決によって当該紛争を解決することが期待できない場合には、裁判所が本案判決をなす要件に欠けます。

無益な訴訟に応訴する被告の負担や裁判所の負担から解放されるために要求されるものです。

権利保護の資格

権利保護の資格とは、訴えによって定立されている請求が本案判決の対象、すなわち法律上の争訟(訴訟物が当事者間の具体的権利義務又は法律関係であり、かつ、攻撃防御方法が法令の適用に適する)に該当するものかどうかの問題です。請求が法律上の訴訟に該当しない場合は、裁判所の審判件の外におかれます裁判所法第3条第1項)。

法律上の訴訟とは、訴訟物が当事者間の具体的権利義務又は法律関係とみなされること、訴訟物についての攻撃防御方法が法令の適用に適するものという2つの基準が掲げられています。

権利保護の利益(狭義の訴えの利益)

権利保護の利益とは、権利保護の資格が満たされていることを前提としたうえで、当該事件の事実関係を考慮して、本案判決によって訴訟物についての争いが解決されうるかどうかの問題です。

本案判決を得る必要性

訴えの利益が認められるためには、まず、請求について本案判決を得る必要性が存在しなければなりません。したがって、原告が既に請求認容の確定判決を受けているときは訴えの利益が認められません。

次に、二重起訴の禁止民事訴訟法第142条)、再訴の禁止民事訴訟法第262条第2項人事訴訟法第25条)などは、既に本案判決を求める機会が与えられているため、訴えの利益は認められません。

当事者間に、対象となる権利関係が特定されたうえで不起訴の合意や仲裁合意が存在する場合も、訴えの利益は否定されます。権利関係が特定されていない合意は、裁判を受ける権利の保障に反するものとして無効です。

もっとも、権利関係が当事者間の合意によって自由に処分できるものでない場合は、不起訴の合意は無効です。離婚についても、正当な事由がある場合でも離婚権が否定されることになるため、不起訴の合意は無効とされています。

現在の給付の訴えの利益

現在の給付の(既に履行期の到来している給付請求権を訴訟物とする)訴えの利益は、特別に訴えの利益が問題とされることはありません民法第414条第1項)。

被告が任意履行の意思をもっていても、原告が提訴前に履行の催告をしなくても、強制執行の方法によって実現することが法律上又は事実上不可能若しくは困難であっても(例えば夫婦の同居義務)、債権者が執行証書を有している場合であっても、債務者の責任財産が存在せず強制執行による満足が事実上期待できなくても、訴えの利益は認められます。

損害賠償請求権は残されているなど、請求権の存在を既判力をもって確定する意味があるからです。

ただし、自然債務については裁判上履行を求める権能自体が欠けており、ただ任意給付の受領権能のみが存在するため、訴えの利益が否定されます

不執行の合意によって請求権の強制履行権能が制約されているときには、訴訟物たる請求権の属性を明らかにするために、給付判決の主文において強制執行の不可を明らかにすべきとされています(最判平成5年11月11日民集47巻9号5255頁)。

将来の給付の訴えの利益

離婚訴訟に財産分与請求を併合するなど将来の給付の訴えの利益は、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り認められます民事訴訟法第135条)。

あらかじめその請求をする必要がある場合とは、次のような場合です。

  • 履行期が到来してもその履行が合理的に期待できない事情が存在する場合
    • 被告たる債務者が既に義務の存在又は内容を争っている
    • 債務者が履行期の到来した元本債権及び利息債権の存在を争っているときに、債権者が口頭弁論終結後の利息の支払を求める場合
    • 土地・家屋の明渡義務の存在が争われているときに、弁論終結時後明渡済みに至るまでの賃料相当額の損害金の支払を求める場合
    • 賃料など継続的・反復的給付のうち履行期到来分が争われるとき
  • 給付の性質上、履行期の到来時において即時の給付がなされないと債務の本旨に反する結果となるか、又は原告が著しい損害を被る場合
    • 一定の日時に行われなければ債務の本旨に合致しない作為義務の履行請求
    • 定期売買に基づく履行請求
    • 債権者の生活保護のための扶養料請求

問題となるのは、将来の不法行為に基づく損害賠償請求です。将来の請求権の発生原因である不法行為の継続が予想されること、請求権の額(損害の額)が明確であること、債務者が請求異議の訴えによって請求権の消滅などを将来主張することが予測される場合に請求権の消滅の事由があらかじめ明確になっていることなどから、訴えの利益の有無を判断します。

実質的には、訴えの利益を認めて債務者に請求権の不発生や消滅にかかる事実を請求異議の訴えとして主張させるか、訴えの利益を認めず、将来、請求権の履行期が到来した段階で債権者に対して訴えの提起をさせるかという判断です。

確認の訴えの利益

確認の訴えにおいて、訴訟物たる権利関係の基準時が過去の権利関係の存否であれば、現在(口頭弁論終結時)において消滅した場合などは紛争も消滅しているはずであり、紛争解決にとって有効・適切なものとはいえず、訴えの利益は否定されます。

ただし、派生的権利関係を確認の対象とするのではなく、それらの基礎にある存在や効力を確認することが、紛争の抜本的かつ一挙的解決に資するなど、過去の権利関係や法律行為の効力の確認が現在の権利関係をめぐる紛争の解決にとって適切である場合には、確認の利益を認めて差し支えないとされています。

形成の訴えの利益

形成訴訟は、どのような場合に形成判決による権利関係の変動が認められるかについて規定があるため、その規定にもとづいて形成の訴えが提起されていれば当然に訴えの利益が認められます。

当事者適格(訴訟追行権)

当事者適格(原告適格及び被告適格)とは、訴訟物たる権利関係について、本案判決を求め、又は求められる訴訟手続上の地位です。訴訟追行権とも呼ばれます。

当事者能力や訴訟能力は、具体的な訴訟物にかかわらず専ら当事者の人的属性に着目するのに対し、当事者適格は、当事者と訴訟物との関係に着目して裁判所が本案判決をすべきかどうか判断するものです。

当事者適格の判断基準は、訴訟物たる権利関係の主体であると主張し、又は主張される者かどうかです。

  • 給付訴訟では請求権の主体に原告適格、その相手方に被告適格が認められます(最判平成23年2月15日判時2110号40頁、最判昭和61年7月10日判時1213号83頁)
  • 確認訴訟では、訴訟物たる権利関係の主体に当事者適格が認められます
  • 形成訴訟においては、形成判決による変動の対象となる法律関係の主体に当事者適格が認められます

伊藤眞 (東京大学名誉教授)/著『民事訴訟法 第7版』(有斐閣、2020年)193頁

訴訟担当

例外として、権利義務の主体以外の第三者が、主体に代わって訴訟物についての当事者適格を認められる訴訟担当があります。訴訟担当には、法定訴訟担当と任意的訴訟担当とに分けられます。

訴訟担当は、担当者自身が当事者となる点で訴訟代理とは異なります。

法定訴訟担当

債権質権者、代位債権者、株式会社における責任追及等の訴えの株主、一般社団法人における責任追及の訴えの社員、差押債権者、破産管財人などです。

職務上の当事者として、人事訴訟事件における検察官、成年後見人及び後見監督人などがあります。

任意的訴訟担当

省略します。

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